液体水素の実用化についても検討が始められている模様
これに関連し、水素の理想空燃比について聞いてみたが、さすがにこれは機密事項だそうで、答えてもらうことはできなかった。だが、気体の水素を燃焼してガソリン機関以上の出力/トルク値が得るようになったことを考えれば、1回当たりの燃焼に際し、相当な量の水素がシリンダー内に送り込まれていることは疑いようもない。
この点に関しては、高圧(高圧縮)水素をシリンダー内に直接噴射する(間接噴射では出来ない)ことで可能になったもので、トヨタが実用化してきた直噴方式、トヨタD-4システムがその土台となっていることを付け加えてくれた。
また、これは競技(速く走ること)とは直接関連しないことだが、ガソリン燃料に対し、リーンバーン(希薄燃焼)方式に対する自由度の幅が広いことも語ってくれた。リーンバーン方式を量産車に当てはめれば、省燃費、航続距離の長さを意味することになり、排出ガス低減(といっても水素は無公害だが)、燃料代と、ユーザーの立場から見れば有利な要素がいくつか並ぶことになる。
さらに、今回のレースで注意を引いたのは、昨年同様、給水素は補給システムの関係からピット裏の隔離された特設エリアで行われたが、その片隅に「液化水素」と記された運搬車(トレーラー方式)が置かれていたことだ。ちなみに関与企業は「イワタニ」だ。水素は、気体と液体では、その体積比は約800対1となる。もし、自動車の燃料として液体水素を使うことができれば、その携行容量は気体の800倍となる。なお、気体水素を使う現行のカローラスポーツは、トヨタの燃料電池車MIRAIと同じレベルの70MPa(メガパスカル)で気体水素は圧縮されているという。逆に言えば、MIRAIに給水素を行っているステーションであれば、カローラH2コンセプトへの給水素もできるという。
ところで、現実的には、液体水素はロケット燃料として使われるぐらいで、民生レベル、それも自動車のような小型移動体の燃料としてはまったく想定外(?)だった。しかし、水素で走るカローラスポーツの実例を目にすると、液体水素の実用化は、俄然現実味を帯びた問題として捉えられるようになる。こうしたことを踏まえ、液体水素の可能性について尋ねたところ、これまで燃料を作る側、使う側が現実問題として取り組んできたことはなかったが、逆に、カローラH2コンセプトの実証実験がきっかけとなり、関係者が同一のテーブルに着いて検討が始められる状況に変わってきたという。
液体水素を燃料として使う場合の問題点は、補充方法や補充に関する温度管理(液体水素の沸点は−252.6℃)などで、一朝一夕で解決できる問題ではないが、近年の技術進歩を目にすると、それほど遠い先のことではないようにも思えてくる。
社長自ら「モリゾウ」の名前でドライバーを務め、水素燃料車の開発に積極的な姿勢を見せる姿勢は、他のメーカーでは絶対に見られない大きな特徴だ。昨年よりラップタイムで約5秒(予選タイムは1分58秒台)、平均周回数は1ラップ増えて13周、給水素時間が5〜6分から2分程度にまで短縮されたカローラ水素燃料車の戦いぶりを見ていると、モーターレーシングは技術開発、研鑽の場として最高の舞台という表現が、まさに実感を伴って伝わってくる。