クルマをぶつけたあとの板金修理! 実際に見積もりを取ったらディーラーとGSと街の板金屋では価格差3倍の場所もあった

板金修理の選択肢は多くなっている

 ボディのキズや凹みを直す板金修理をする際、短時間で行う簡易修理、一般的な板金修理工場での作業、ディーラーに依頼するなど選択肢は多い。もちろん価格もそれぞれで大きく異なる。これら3つの施工方法で、仕上がりと工期、コストのバランスが良かったのは、意外にも一般的な板金工場だった。

クイック板金とディーラーでは工賃と修理内容が大きく異なる

 今回のサンプル車は、トヨタの先代アクア後期型。ボディカラーはフレッシュグリーンマイカだ。駐車場の脇にあった鉄製のポールに左後ろのドアを擦ってしまい、凹んでしまった。さらにキズもあり、ポールの塗料も付着している。

 修理をするに当たって、ガソリンスタンドの簡易(クイック)板金、町の板金工場、トヨタディーラーで修理費用を見積もってもらったのだが、その際に指摘されたのが、キズがプレスライン上にあり、さらに2カ所というところだ。これが作業工数を増やし、工賃が高くなる原因となった。

工賃は4万円と安いが条件アリの簡易板金

 ガソリンスタンドなどで行っている簡易(クイック)板金は、作業時間の短さと工賃の安さが特徴だ。ただし、大きな凹みには対応できないこともある。今回見積もりをしてもらった店舗では工賃は約4万円。作業は専門工場で行うと言うこともあり、ガソリンスタンドからの移動も含めると入庫から仕上がりまで2日間を要するという。作業方法に関する詳しい説明はとくになかったが簡易板金の場合、一般的にはドアハンドルやウインドウ、モール類は取り外さずに板金塗装をするはずだ。

 工賃が安く工期も短いのはメリットにはなるが、塗装した部分と他の部分とボディカラーが合わない可能性もあるとのこと。さらに凹みを直すときにパテも使用するのだが、時間が経過するとパテが痩せて塗装面にシワが出るかもしれないとも言う。このようなことが起きてもクレームを入れないということを承諾したうえで作業を受け付けるそうだ。

ディーラーは約14万円で2週間かかる

 自動車ディーラーで見積もりをしてもらうと工賃は約14万円。作業は板金の専門工場で行い、ディーラーに持ち込んでから仕上がるまでの期間は2週間かかるという。キズが2カ所あるので、修理の範囲が広いこともありドアを外して作業するという。それゆえ工期が長くなり、そして工賃も高くなってしまうそうだ。

 板金塗装店に勤務していた人によると、ディーラー系の大きな板金塗装工場ではモールやドアハンドルなどパーツを外す、凹みを直す板金作業、塗装など、分業化して作業するそうだ。

 それぞれの工程にいるスタッフは、専門ゆえに技術力が高いことは間違いない。つまり、塗装をした部分と他の部分の色合わせなど、仕上がりに対する安心感はかなり高いわけだ。工賃が高く工期は長いが、精度の高い修理を求める人はディーラーに修理を依頼すると良いだろう。

店選びは難しいがコスパが良い町の板金修理工場

 まず最初に断っておきたいのが、町の修理工場の技術レベルや作業内容は店舗によって差があることだ。つまり、ここで紹介する工場より優れているところもあれば、劣っているところもある。できれば、その工場で修理したことのある人の意見を参考に選ぶと良いだろう。

 アクアの作業を依頼した工場は、板金から塗装までを一人で行っている小規模なところ。それゆえ作業依頼が溜まっているようなときは、実際に作業をしてもらえるまで何日も待つ必要がある。

 キズの状態をチェックしてもらうと工賃は約6万円で、工期は2〜3日という。本来ならドアまわりのボディも塗装するそうだが、今回は幸いにもキズがドアの中央付近にあったためドア1枚でも塗りむらは目立たないという。これも工賃を安くできた要因の一つである。それでもドアハンドルやモール類、ウインドウは取り外すなど、大きな工場と同じような作業工程で修理するそうだ。

 このように安さと手軽さを求めるならガソリンスタンドなどの簡易板金。工賃は高く工期も長いが、仕上がりの安心感はディーラー。施工技術力の見極めは必要だが、ディーラー並みの仕上がりが期待できて、比較的工賃が安く、工期で短いのが町の板金工場ということになるだろう。

 では、アクアの修理を依頼した板金工場では、どのような作業が行われているのかリポートしてみよう。ハッキリ言って、ここまでキチンとした作業をしてもらえるなら少々工賃が高くても納得できるはずだ。

凹んでいる裏側にメンバーがあるから叩き出せない

 今回もっとも大きく問題となったのが、パネル下部のプレスライン上の凹みだ。ドアの場合、内張を外せば外板に裏側からアクセスできる。ところが、凹んでしまった部分の裏側にはメンバーが通過しており、たたき出すことはできなかった。

 このような理由からドアの外側から板金作業をすることになった。まずは塗装を剥がす。これは鉄板をむき出しにして、治具の先端を溶接できるようにするためだ。素人目では凹んでいる部分を引っ張れば直りそうに思うが、じつはキズの周辺も歪んでいるそうだ。それゆえ、治具を使いパネルを何カ所も引っ張っていた。

 プレスラインの凹んだ部分は、写真のようにリング状の金具を並べて溶接。

 このリングに通した棒をスライディングハンマーで引っ張り凹みを修正するのだ。

 治具による板金ではある程度のカタチになるが、表面を整えるのはパテだ。「パテ」というと大きな凹みまで修正するようなイメージではあるが、プロはパテを極限まで薄くというのが基本だ。

 取材した工場では、パネルの凹みを修正したあとに強度が高いカーボンパテを使用。

 乾燥させた後に表面を磨く。ほとんど削り落としているように見えるほどで、表面は明らかに滑らかに整っている。

 さらに目の細かいパテを再び全体的に塗って、もう一度磨きをかけることで表面の滑らかさを高めるそうだ。

 パネル面の補修が終了したら塗装の下地である(塗料の乗りを良くする)サーフェイサーを噴く。乾燥したら、表面を再び研いでいよいよ塗装となるわけだ。

指定の配合割合だけではボディカラーは合わない

 ところが色を選定するのにこれほどの時間を要するとは思わなかった。

 ボディカラーには、それぞれ色番号というものがある。アクアのフレッシュグリーンマイカというボディカラーは「588」である。塗料メーカーでは、それぞれのボディ色になるように混ぜ合わせる塗料の配分を公開している。それにしたがって塗料を混ぜれば。”ほぼ”指定した色になるわけだ。

 ところが同じフレッシュグリーンマイカでも、塗料メーカーが指定する配合パターンは4種類。トヨタ・ハイエースに至っては25種類というボディカラーもあるそうだ。

 もちろん、メーカーが塗装する際の塗料の配合は決まっているのだが、塗料メーカーの違い、生産ラインおよび工場の違いなどによって、実際のボディカラーに微妙な違いが出てしまうそうだ。さらに、同じ工場でも塗装した日の気温や湿度などでも色は異なるという。

 当然のことだが、時間の経過やクルマの保管状況によってもボディカラーは変化する。さらには、ルーフとボディサイドでは日が当たる状況も異なるし、屋外保管なら駐車場の方角によっても部位によってボディカラーは大きく異なってくる。

 つまり、塗料メーカーの配合比はあくまでも目安であって、実車との色合わせは人の目(感性)によって成り立っていると言っても過言ではない。まさに職人技の領域なのである。

 サンプルカラーを何種類も作成して、そのパネルをボディに付ける。ドアの上部と下部でも色が異なるから、どこに合わせるかの判断も難しいという。場合によっては、塗料の配合比を決めるだけで半日以上かかることもあるそうだ。

 ちなみに新たにフレッシュグリーンマイカの塗料を塗るのは修理した周辺のみだ。

 一般的に「ドア1枚を塗る」と言っても、塗料の上に噴くクリア塗装を施すのが「ドア1枚」ということで、全体を塗り直しているわけではないそうだ。

 クリア塗装をしたあとでも「塗装の肌調整」として塗装面の毛ホコリなどの混入をチェック。混入しているところは、再び研磨する「目消し」と呼ぶ作業を行う。この作業が十分でないと下取り査定時に「ボディに補修歴あり」と評価されてしまうそうだ。

 一連の作業が終了したら、いよいよバフを使ってさらに目の細かいコンパウンドで仕上げとなる。

 このように時間をかけて塗装しても、プロ目線では「従来からのボディ色に近づけるレベル」という。板金塗装に限らず工賃が高いとか安いというのは、ユーザー側のこだわりにもよると思う。高いお金を払っても満足度が高い仕上がりだったら安く感じるだろうし、安くてもそれなりなら高いと思うだろう。

 取材協力:ボディショップ コアーズ TEL:045-591-540


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