サイズは大きくなくても効果は絶大な空力パーツ
では、乗用車の空力性能に影響を与えそうな空力パーツはなんだろう。近年のトヨタ車に多く採用されているのが「エアロスタビライジングフィン」と呼ばれる空力パーツだ。なんでも海中を泳ぐ魚の形状から着想し、車体に貼付けることでスムースな空気の流れを確保し、ボディデザインが元来持っている空力性能を安定して発揮させるのが狙いだ。
車体に添って流れる空気は、流線型の車体では一見スムースに思えるが、それでも空気振動で剥離や表面効果を繰り替えして不規則で不安定になっている。スタビライジングフィンを取り付けることで剥離しようとする空気がフィンに巻き込まれ車体に添って流れるようになる。その効果は大きく、時速40kmほどでも走行フィールに安定感が感じられるようになる。
86デビュー当初は後付けパーツとして設定されていたが、今は樹脂系パーツにあらかじめ型を仕込み、一体成型として採用している例が多くなっている。とくにミニバンなど、車体表面積が大きく気流の影響を受け易いモデルでは効果的だ。
三菱自動車がランサー・エボリューションVIII MRで採用していたのは「ボルテックスジェネレーター」(ディーラーオプションとして)だ。ルーフエンドの角に、まさに角のように8本の突起物が形成されていたものだ。ルーフ部を流れる気流がジェネレーターに当たることで意図的に縦渦を発生させ、空気抵抗を軽減させながら、リヤに装着された大型のスポイラーから効率よくダウンフォースを発生させるのが狙いとされた。
そもそも三菱自動車は、航空機開発の技術を活かした空力性能開発が得意で、ランエボVIII(CT9A)型では、フロントウインドウ上端から後方に約7度の下半角を付けるのが空力上理想と解析していた。しかし、セダン形状の車体では、後席のヘッドクリアランスを確保するためルーフ後端が高くなり、7度の下半角は形状的に得られない。そこで、航空機の空力技術であったボルテックスジェネレーターをルーフエンドに装着することで、下半角7度のルーフと同じ効率でリヤスポイラーに気流が流せることを突き止めたのだ。
その効果はとくに高速域で絶大で、フロントヘビーなランエボながら、高速になればなるほどリヤタイヤが路面に粘り着く感触が得られていた。僕はその開発時に独・ニュルブルクリンクでテスト走行を行ったが、とくに高速難所として名高い「ケッセルヒェン(1976年のF1GPでフェラーリのニキ・ラウダがクラッシュし炎上、重傷を負ったコーナー)」を時速200kmオーバーでもアクセル全開のまま安定して駆け抜けることができ、その効果の高さを実感した。
派手な形状のウイングやスポイラーは空力パーツの王道だが、こうしたちょっとした工夫や造作でも大きな効果が引き出せることが、近代空力技術のレベル高さを物語っているのだ。