ミニバンの分野ではFF化のメリットは大きかった
同じく1980年代にFRからFFになったことで成功したといえるのが、いすゞジェミニだ。初代ジェミニはゼネラルモーターズのグローバルカー構想に基づいたFRプラットフォームで、後期には1.8リッターツインカムエンジンを積んだZZグレードがイメージリーダーとなるなどFRスポーツらしいモデルだったが、1985年にフルモデルチェンジでFF化するとイメージを一新。
『街の遊撃手』というキャッチコピーと、パリの街を縦横無尽に走りまわるテレビコマーシャルの影響で、むしろコンパクトでキビキビ走るクルマに進化したことが高く評価されることになった。パステル調のカラフルなボディ色が設定されたことも人気を呼んだ。まさにFF化による成功例といえる。
一般論でいえば、FFのメリットはキャビンを広くとれることにある。そうした点を求めてFRからFFに変身したモデルがトヨタのミニバン「ノア」だろう。商用1BOXのアーキテクチャをベースにした初代モデル(タウンエースノア/ライトエースノア)は、セミキャブオーバーのスタイルとスライドドアという要素はミニバン的だったが、乗り心地やハンドリングは商用車的で、ファミリーカーとして評価するには微妙なところもあった。
そのため、当時FFの乗用プラットフォームをベースに作られた同クラスのミニバン、ホンダ・ステップワゴンには販売面でも評価の点でも差をつけられていた。
そんなタウンエースノア/ライトエースノアは、2001年11月のフルモデルチェンジでFFプラットフォームを採用した。あわせて車名からもタウンエース/ライトエースという商用チックな響きを持つ部分を外し、「ノア」という名前に変えている。そこからの快進撃は言わずもがなで、日本車の歴史においてはFF化による最大の成功例といえるかもしれない。
トヨタのミニバンには、もうひとつFR→FF化での成功例がある。それが「グランビア」から「アルファード」へのドラスティックな進化だ。
グランビアというのはトヨタ初の3ナンバー専用ボディを持つ高級ミニバンで、そのデビューは1995年。この当時はクラウンに象徴されるように高級車は後輪駆動という認識が強く、グランビアは欧州向けハイエースのアーキテクチャを利用して作られた。
モデル途中の改良でトップグレードに3.4リッターV6エンジンを積むなど、高級ミニバンらしい進化を遂げていった。しかし、FRレイアウトゆえに前から後ろまでプロペラシャフトを通すために高床になってしまう部分があり、そこは乗降性やパッケージでは不利といえた。
そんなグランビアの事実上の後継車といえるのが、キング・オブ・ミニバンの「アルファード」だ。アルファードは初代からフロントにエンジンを横置きしたFFプラットフォームを採用していることはご存じのとおり。アルファードの販売実績をみれば、FR→FF化が成功したことを疑う余地はないだろう。