この記事をまとめると
■新型BMW 7シリーズの巨大なグリルによる独特のマスクが話題
■グリルを大きくして顔をアピールするのはカーデザインをいささか狭く捉えていると言える
■立体感が強調されてボクシーなイメージが強い新型7シリーズと巨大なグリルの相性はいい
かつてないほどに大型化したBMWのキドニーグリル
今年末までの国内正式発表に先立ち、4月21日に「THE FIRST EDITION」が発表された新型「BMW 7シリーズ」。M Sportに加え、BEVである「i7」の設定も話題だが、何といっても巨大なグリルによる独特の「顔」が注目の的だ。
振り返ってみれば、BMWのシンボルであるキドニーグリルが大型化に向かったのは現行7シリーズから。当時、商品担当者から聞いたのは「中国市場などを意識した」という理由だったが、その後はほかのシリーズにも波及、最近の「4シリーズ」や「M3」、そしてBEVの「iX」などで同様に話題となっている。
では、この巨大なキドニーグリルによる新しいBMWの顔はアリなのだろうか?
カーデザインの主役は「顔」か?
まず最初に考えたいのは、「クルマのデザインにおいて、ことさらフロントフェイスばかりをクローズアップするのはどうなのか?」ということ。
グリルを中心にした「顔」によるブランディングといえば、かつてはドイツ御三家の十八番だったが、ご存じのとおり、近年は日本車でも展開されている。トヨタの「キーンルック」、日産の「Vモーション」、マツダの「シグネチャーウイング」、スバルの「ヘキサゴングリル」などがそれだ。
いずれも、社内でのデザインに関する意識が向上し、対外的なアピールとして使われるようになった。実際、マツダではシグネチャーウイングを含めた「魂動デザイン」がブランディングに大きく寄与したのは誰もが認めるところだろう。ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、顔の統一や差別化と「いいデザイン」とは別の話だということ。
ちなみに、こうしたデザインフィロソフィが流行る以前にグッドデザインとされたクルマはどうだったか? たとえば、トヨタの12代目「クラウン」(ゼロクラウン)や、日産の初代「プリメーラ」、マツダの「ユーノス500」などは、特段グリル云々なんて話はなく、あくまでもスタイリング全体が優れていたからこその評価だったではないか。
「世界でもっとも美しいクーペ」と言われたBMWの初代6シリーズだって、キドニーグリルがどうこうという話じゃなかったし、BMWデザインを大きく変えたとされるクリス・バングルの一連のデザインも、やはりボディ全体での斬新な表現だった。
グリルを含めた「顔」ばかりに凝り、過剰に大きくしてアピールするのは、だからカーデザインをいささか狭く捉えているといえる。まあ、クルマの顔はグリルやランプ、バンパーなど要素が多く、あれこれ手を加えやすいのはわかるが、それは本筋じゃない。