セダンがステイタスの中国でもSUVが人気に
中国はそもそもセダンの人気が圧倒的に高かった。少し余談となるが、地方の共産党幹部が会議などの所用で首都北京を訪れることがあるが、中国では共産党や政府、大企業などでは幹部だけでなく、中間管理職あたりまで広く運転手付きの専用車が用意される。しかも、聞いたところでは役職に応じて排気量や大きさで差がつけられているとのこと。
中国では欧米ブランドの現地生産モデルや中国系メーカー車ではセダンだけでなく、SUVやミニバンでも同一車種で標準とロングホイールベースモデル(あるいは同一グローバルモデルとは異なる中国専用ロングホイールベースモデル)が用意されたりする。これは、運転は運転手に任せ、いわゆるお偉方が後席で足を組んで快適に乗ることができるようにするためのものとされている。
そして、北京では一汽奥迪(アウディ)の地元になるので、政府関係者などは運転手付きのアウディA6やA4に乗っており、それを見た地方幹部が地元へ帰ってアウディのセダンに乗るようになったともいわれている。一方で、上海では上海大衆(大衆はフォルクスワーゲンの意味)の地元なので、大手企業や政府関係の機関では上海大衆パサートセダンが運転手付き車両で用意されることが多いようだ。
さらに余談となるが、ミニバン(中国では高級商務車と呼ばれている)では、アルファードの人気は高いのだが、伝統的にやはり政府機関などで使われていることもあり、上海通用(通用はGMの意味)の別克(ビュイック)GL8が、ミニバンではもっともステイタスが高いとされている。
つまり、共産党や政府、大企業幹部が運転手付きの黒塗りセダンに乗っているのを一般大衆が見て、憧れもあり(「いつかはああいうクルマに乗りたい」という気持ち)、それが、アウディやフォルクスワーゲンだけではなく、セダンが圧倒的に人気が高くなった理由のひとつではないかと筆者は考える。
しかし、いまほど中国でSUVがもてはやされる以前から、沿岸大都市の富裕層の間では、パーソナルユースで見てもメルセデス・ベンツやポルシェ、BMWなど欧州高級ブランドでもセダン系車種に乗るのが圧倒的に多かったのだが、地方都市へ行くと富裕層はレンジローバーやポルシェ・カイエンなどのSUVばかりに乗っていた。その理由のひとつは、ASEANと同じく道路冠水など道路環境の悪さがあったようだ。ただ、道路環境の悪さといっても、中国ならではのものもあったと聞く。
沿岸都市と内陸との格差是正もあり、内陸都市でも都市開発が進み目抜き通りなどの道路整備は進むのだが、日本でいうところの区画整理が中途半端というか、道半ばというか、人目につきやすい部分のみ整備が進むことがよくあるそうだ。そのため、自宅から整備された道路へ出るまでの、ラストワンマイルといった部分が、ゴツゴツした岩も珍しくない悪路と呼んでいい未舗装路であったりするので、最低地上高の高いSUVが重宝がられているというのも理由としては大きいとのことである。
世界的にSUVは人気が高いのだが、先進国ではファッションなど見た目で選ばれ人気が高い傾向が強いが、新興国では実用的な理由もあって人気が高まっているので、その人気の背景は微妙に異なっているようである。