世界的デザイナーの手に掛かれば日本車も世界相手に戦えた
3台の美しきクーペたち
続いて、ネオ・クラシック部門は初代「BMW6シリーズ」から。
ラグジュアリークーペ(カブリオレもあり)として1976年に発表されたボディは、メルセデス・ベンツから移籍したポール・ブラックの手によるもの。BMWでは初代の「3シリーズ」や「5シリーズ」も手掛けましたが、「世界一美しいクーペ」と評される6シリーズが氏の最高傑作と言えます。
比較的大きなキャビンと、逆スラントノーズから始まる伸びやかなボディとの組み合わせは極めて端正。明快なキャラクターラインはじつにモダンですし、もちろんBMWの代名詞であるホフマイスターキンクも上品な佇まいを醸成しています。
ネオ・クラシック部門の2台目はいすゞの初代「ピアッツァ」とします。
ご存じ、ジョルジョット・ジウジアーロによるコンセプトカー、アッソ(ASSO)シリーズの1台、「アッソ・デ・フィオーリ」の量産バージョンです。
「117クーペ」の後継車として1981年に発表されましたが、その流麗なフォルムはもちろんのこと、20~30年後まで見越した極めて先進的な面の表情、構成が圧巻です。もちろん、コンセプトカーをほとんどそのまま量産化させたいすゞの技術力も素晴らしく、カタログにジウジアーロ本人が登場していたのも頷けます。
さて、最後となる3台目はプジョー「406クーペ」ではいかがでしょう。
ずっと時代を下った1997年発表の同車は、じつに現代的な美しさを持ちます。セダンは社内デザインを基本としましたが、クーペはピニンファリーナの作であり、生産も同社で行われました。
直接担当したのはダビデ・アルカンジェリで、後にフェラーリ「360モデナ」や5代目の「BMW5シリーズ」を手掛け、氏を天才デザイナーと評する評論家諸氏も少なくありません。クーペとして極めて王道的かつシンプルなフォルムであり、その分徹底した各部の磨きこみが容易に想像されるボディです。
さて、こうして振り返ると、どれもが「世界で一番美しいクルマ」とされていますが、それは時代によって造形の表現が変わっても、多くの人々に響く普遍的なプロポーションが厳然として存在することを示しています。これからも、表層的な見せ方に止まらない、本当の美しさをもったクルマの登場を期待したいと思います。