電子制御デバイスが巧みにクルマを制御している
では、そうした挙動が公道の“法定速度”において発生してしまうことはあるのだろうか。
タイヤの細いクラシックカーや整備不良でタイヤの山がなくなっているようなクルマを除くと、おそらくドライの舗装路でスピンしてしまうことはない。いまどきのタイヤ性能を考えると、スピン状態に陥るまでタイヤのグリップが失われるケースは考えづらい。
しかしながら、大雨や降雪によってスリッピーな路面になっていれば話は別だ。とくに下り坂ではリヤタイヤのグリップが失われやすいため、強いブレーキをかけたときに想像以上にリヤタイヤが滑ってしまい、カウンターステアなどで対応できなければスピンしてしまうこともあるだろう。前方不注意などで急なハンドル操作をしたときにもリヤタイヤのグリップを失い、急激にオーバーステア状態になってしまうことはあり得る。
「急のつく操作は避けるべし」というのは安全運転の基本だが、公道の速度域であって急ブレーキや急ハンドルによってクルマをスピンモードにすることは不可能ではない。
ただし、いまどきのクルマに乗っているのであればスピンすることを過度に心配する必要はないだろう。
なぜなら、スピンを防止する効果のある電子制御「ESC(横滑り防止装置)」が義務化となって久しいからだ。具体的には、新型の登録車であれば2012年10月1日以降に型式指定を受けた車両から義務化となっている。遅くとも、2018年2月24日以降に製作された軽自動車(継続生産車)にはESCが標準装備されている。
ブレーキを独立制御することでオーバーステアやアンダーステアといった危険な挙動を抑えるのがESCの役割であり、絶対にスピンを防ぐことができるとはいえないが、それでも大半のケースにおいて車両の姿勢が危険な領域に入らないよう制御することはできる。
とくに最近のモデルであれば、サーキット走行においてもESCをオフにしない限り、スピンモードに持ち込むのは難しいほど、その制御は信頼できるレベルとなっている。雪道で片輪だけアイスバーンに乗ってしまったようなケースでもスピンしてしまうことは、ほとんどない。
いま新車で売っているクルマであれば、よほど悪意をもって運転しない限り公道でスピンしてしまうようなことは、まずあり得ないといえるだろう。