【試乗】やっぱりアルファは凡庸なクルマを作らない! 小型SUV「トナーレ」の「気持ちいい〜!」が圧巻だった (2/2ページ)

走りの気持ちよさも曲がりのよさもすべてがアルファロメオ

 けれど……とここで話を切り換えて、さもこれから重要な話題に入るぞという雰囲気作りをするのはスポーツカーを語るときの常套手段なのだけど、このトナーレ、ついうっかりそうしたくなっちゃうようなクルマだったのだ。ステルヴィオがそうであるように、このクルマも「フツーのSUV」じゃないのである。

 トナーレは、アルファロメオ112年の歴史で初めての電動化モデルでもある。アルファロメオはここからラインアップの電動化を押し進めていき、2027年にはバッテリーEVのみのブランドになることを宣言している。つまり、ブランドにとってもユーザーにとっても、トナーレは近い将来を占う重要な試金石となるわけだ。2019年のコンセプト発表から正式デビューまで時間がかかったのは、その部分をしっかり煮詰めるためだったとも聞かされてる。

 基本的なラインアップ構成は、トランスミッションにP2モーターを組み込んだ前輪駆動の「ハイブリッド”」と、前輪をエンジンで後輪はモーターで駆動する4WDの「プラグイン・ハイブリッド」の2本立てとされているが、今回の試乗は前輪駆動のハイブリッドモデルのみ。高性能版でもあるプラグイン・ハイブリッドは少し遅らせて、おそらく6月の発売開始頃に全貌が明かされることになるのだろう。

 ハイブリッドモデルには160馬力仕様と130馬力仕様が存在していて、今回の試乗で与えられたモデルは160馬力仕様のみ。ということは、おそらく日本に導入されるのも160馬力仕様がメインになるんじゃないか? と僕は勝手に予想している。

 その160馬力仕様、僕はけっこういいぞ、と思った。ざっくりいうなら旧FCA時代からのファイアフライ系ユニットをベースにしながら新開発しなおしたという1.5リッター4気筒ターボは、可変ジオメトリーターボを備えるトナーレ専用のチューニングで、最高出力は160馬力/5750rpm、最大トルクは240Nm/1500rpm。7速DCTに内蔵されるP2モーターは15kW(20馬力)と55Nmで、トランスミッション比が2.5対1であることから、トルクのギヤボックス入力値では135Nmに相当するという。

 いわゆるマイルドハイブリッドに分類されるシステムだが、トナーレのそれは低速走行時にはモーターだけで走ることができる仕組み。いろいろ試してみた感じでは、静止状態から20km/h程度までの間はモーターのみで走ることが多いようなのだけど、そのときにも力不足は感じられなかった。もっとも負荷が大きくなったり、アクセルペダルを踏み込んで速度を上げようとしたりすると、エンジンが始動してハイブリッド走行になるわけで、力不足にならない仕立てになってるということなのだろうけど、そのモーター走行からハイブリッド走行に切り替わるときもフィーリングはとっても自然で、どっちで走ってるのかなんて気にならなくなっちゃったほど。常用域での出来映え、悪くない。

 とはいえ、アルファロメオなだけにトナーレはスポーツ系SUVだと最初から決めつけていた僕がもっとも気になってたのは、そこじゃなかった。「そこにドライビングプレジャーはあるか?」である。

 これまで体験してきたファイアフライ系のエンジンは、スポーツユニットというわけではないものの、意外やレスポンスもいいしシャープにまわるし、回転が伸びていくときにはけっこう快いサウンドを聴かせてくれたものだった。トナーレ専用の160馬力仕様も同様で、いかにも4気筒といった感じのいい音を響かせながら、トップエンドまで淀みなく気持ちよくまわっていく。時代が時代なので昔のアルファのエンジンのような濃厚さこそないが、意外やまわしていくのが楽しい高回転型で、回転の低い領域は持ち前の低中速トルクとモーターによるアシストの相乗効果でまかなっている感じ。

 モーターのキックはストロングハイブリッドのクルマたちほど強くは感じられないけど、エンジンとのリレーションシップは良好で、十分にスポーツドライビングを楽しめるし、スピードも気持ちよく伸びていく。スペックからも想像できるとおり馬鹿っ速とといえるクルマではないけれど、パドルを弾いてペダルを踏んでと積極的に走っていくのが楽しいパワートレインであるのは確か。スピードの多寡よりもそっちのほうがはるかに大切だと思う。

 でも、さらに大切だと思ってるところがもっと強力に満たされてたのが、僕にとっては最大の歓びだった。何かといえば、曲がりっぷりの気持ちよさ、だ。先にお話ししたとおりの試乗ルートだったので超高速域でどうとかの話はできないが、よく曲がる。SUVならではの背の高さがあるというのに、まるでできのいいハッチバック──たとえるならジュリエッタでも走らせてるかのように、よく曲がる。

 ヘアピンのようなコーナーでも、ステアリングを操作してフロントタイヤが反応するやいなや、リヤもきっちり気持ちいいまでに素早く追従してくる。アンダーステアは感じないし、走らせ方次第ではスルリとリヤを泳がせて曲がっていくことだってできる。めちゃめちゃ楽しいし、めちゃめちゃ心が躍る。……と何だかスポーツカーのことを語ってるような論調になっちゃってるのだが、つまりはそういうクルマなのだ。

 ちなみにKONIと共同開発したFSDダンパーを備えるメカニカルなサスペンションと電子制御のアクティブサス付きがあって、そのどちらも試すことができたのだけど、基本はフットワークのよさもクルマの動き方の推移などもほぼ一緒と考えてもらっていい。もちろんアクティブサス付きの方がより実力が高いことはいうまでもないけれど、けっこうなところまでメカニカルなサスペンションでもカバーできてるように感じられた。

 ただし、不快さはないけどSUVとしては引き締まり気味の乗り心地が、アクティブサスでは快適といえるくらいの乗り味を示すのは確かで、その幅広さに魅力を感じる人はそちらを選ぶべきだろう。

 まだ275馬力+4WDのプラグインハイブリッドのほうには触れてもいないわけだし、もっとハイスピードな領域で走らせてみたいところもあるにはあるけれど、それでも僕は今回の前輪駆動のハイブリッドでもかなり満ち足りてる気分。あくまでもフツーのSUVが欲しいならほかにも選択肢はあるだろうけど、フツーにも使えるのにじつはフツーじゃないSUVというのは貴重なのだ。

 やっぱりアルファロメオは当たり前のクルマなんて作らないのだな、とあらためて感じ入って嬉しい気分になってる今日この頃、である。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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