この記事をまとめると
・ポルシェに造詣の深いジャーナリスト清水和夫さんがポルシェを語る連載
・いま注目を集める電動化技術はポルシェの原点だった
・1900年に発表したローナーポルシェはインホイールモーターのハイブリッド車
ポルシェと40年付き合った清水和夫が語り尽くす
約40年にわたるポルシェとの付き合いのなかから、気になるポルシェの話題を連載することを思いついた。そのきっかけは、ポルシェの電動化(バッテリーEVへのシフト)がどのメーカーよりも積極的であるということが私の心に刺さったからだ。
ポルシェはフェラーリと並んでスポーツカーの名門で、とくに水平対向エンジンという世界でも稀有なパワーユニットを作り続けている。しかも、そのパフォーマンスはスピードとドライバーを痺れされせる官能性に富んでいることはポルシェユーザーなら、誰もが認めるところだろう。
そのポルシェはエンジンを捨て、電気モーターにシフトする勢いがましている。どこまで本気なのか、と思っていたがどうもポルシェのBEV化戦略は、本気の本気なのだ。ポルシェ社をホールドする親会社のVWからの差金なのかと思ったが、いやむしろポルシェがVWやアウディに対して、BEV化のトップランナーとして、志願しているようだ。
第一弾は歴史を振り返ることで、ポルシェのBEV化戦略のストーリーを読み解いてみたい。その前に、先日に起きた海難事故に関する緊急提言をしておきたい。これは極めて重要な論点なのだ。
緊急提言 知床観光船沈没事故に思うこと
シートベルトとエアバックから始まった日本車の安全技術。しかし、日本と欧米では安全に対する認識の違いがとても大きいことに危機感を感じている。実際に社会が不安に陥るような事故が起きると、さまざまなメディアが報道する。とくに朝昼のワイドショーは犯人探しと事故原因追求に躍起になる。こうした現象は日本のお家芸だが、TVのコメンテーターは異口同音に議論を続ける。
1999年にNHK出版から「クルマ安全学」という自動車の安全性の本を上梓したときに、欧米と日本では根本的に安全に対する考え方が異なっていることに気がついた。ポイントはリスクをどう評価しているのかということだった。
それでは真の安全とはどう考えるべきなのか。
この問に答えるのは簡単ではない。というのは欧米では「人間は間違いを犯すし、機械は壊れる」という前提でシナリオを策定する。徹底したリスク管理が議論される。ここ数年、自動車業界だけでなくさまざまな分野で安全問題は話題となっているが、どれも問題が発覚すると責任や管理体制を問う犯人捜しがわき起きる。二度と同じ事故を起こさないために、事故原因追求が重要だと考えるのは当然で、事故を起こさない対策が安全対策だと言われている。たしかにそうだ。だが規制を厳しくして事故を起こさないという絶対安全を求めるのではなく、事故は起きるという前提で、そのリスクを最小化する努力こそが、安全の一丁目一番地ではないだろうか。
その考えを論文として書かれているのが、明治大学理工学部の向殿政男教授だ。「日本と欧米の安全・リスクの基本的な考え方について」という題で書かれた論文が興味深い。この論文は「標準化と品質管理」Vol.16に掲載されたもので、日本と欧米では全に対する考え方が異なっていることを示唆している。規則を厳しくすることで絶対安全を求める日本。他方、技術やシステムにコストをかけて事故は起きる前提で安全を確保する欧米。
今回起きた海難事故を見ていて思うことは、船は沈むという前提で、乗員分の救命艇があれば助かったであろう。海難事故はその頻度は少ないが、被害は甚大なので、事故は起きるという前提で安全対策を講じるべきだった。少なくとも自動車は、ぶつかるという前提で安全技術を構築している。