高度経済成長期に12年も作られた国産車界の革命児とは
法人が所有するVIPモデルでは、トヨタ初代センチュリーが1967年から1997年まで、30年間にわたり作られた。生産台数が少ないために長期間にわたり造る必要があったが、1960年代から1990年代は、自動車の技術も急成長した。この時代にエンジンを載せ換えながら、フルモデルチェンジを行わなかったのは凄いことだ。
同様の法人向けの車種として、初代三菱デボネアも、1964年から1986年まで24年間にわたって作られた。日産プレジデントもセンチュリーと並ぶ法人向けの高級セダンだ。初代モデルを1965年に発売したあと、1973年に外観を大幅に変えたが、実質的にはマイナーチェンジになる。同世代とすれば、初代は1965年から1990年まで製造され、激動の25年間をフルモデルチェンジしないで走り抜けた。
身近な長寿モデルとして注目されるのはスバル360だ。1958年に発売され、スバルR2が登場する1970年まで生産された。12年間の歳月は、今のフルモデルチェンジ周期では驚くほど長くないが、1960年代に軽自動車が刷新されないのは異例のことだった。スバル360が1958年の登場時点で、先進的なクルマ作りをしていた証だ。
当時の軽自動車は、車両重量が500kg前後だったが、スバル360は独自のモノコック構造で385kgと軽い。丸みのあるボディは空間効率に優れ、4名乗車も可能にした。この先進性により1960年代も古さを感じさせなかった。
そして価格の変化に注目したい。1958年に発売されたスバル360は42万5000円で、この金額を大卒初任給をベースに今の価値に換算すると645万円に達した。当時の乗用車は、法人やタクシーなどの需要が中心で、軽自動車のスバル360でも一般ユーザーが買える商品ではなかった。
ところが1965年におけるスバル360スタンダードの価格は35万7000円に下がっている。しかも給与と物価は上昇したから、大卒初任給ベースで今の価値に換算すると341万円であった。給与や物価とのバランスで見れば、フルモデルチェンジを行わず細かな改良によって性能や装備を向上させたスバル360が、感覚的には約半額で買えるようになったわけだ。
そしてスバルR2に切り替わる直前、1969年後期型のスバル360スタンダードは30万9000円で、今の価値に換算すると210万円だ。わずか12年の間に、645万円のスバル360は、210万円まで価格を下げたことになる。スバル360は、多くのユーザーにクルマのある生活を広めた、まさに名車であった。