残価設定ローンならではのリスクも
この逆転現象が生じた理由は、残価の違いにある。ヤリスクロス1.5Zの価格は221万円で、3年後の残価は114万9200円だ。価格に占める残価の割合は52%と多く、価格から残価を引いた金額は約106万円に収まる。
その点でヤリス1.5Zの価格は197万1000円だが、3年後の残価は80万8110円と安い。価格に占める残価の割合も41%と低い。そのために価格から残価を引いた金額は約116万円で、ヤリスクロスに比べて返済額が増えてしまう。
残価設定ローンの返済期間を終えた段階で、残価を支払って車両を購入するなら、ヤリスクロスは高い残価を支払うからさほどトクにはならない。
しかし返済期間を終えた段階で車両を返却する場合は、ヤリスクロスはヤリスよりもトクをする。価格の高いヤリスクロスを使いながら、3年間の返済額はヤリスよりも安いからだ。
そうなるとユーザーは、ヤリスのような残価の高い車種を残価設定ローンで契約する。返済期間が満了して、車両を買い取らずに返却すれば、少ない出費で価格の高いクルマに乗り続けられる。
メーカーや販売会社が残価設定ローンに力を入れる理由も、この点にある。中古車市場で高く売却できるヤリスクロスのような人気の新車がたくさん売れて、なおかつ数年後には、上質な中古車も手に入る。そうなるとユーザーは、3年後には改めて残価の高いクルマを残価設定ローンで契約するから、新車の売れ行きも伸びる。
このオイシイ効果をさらに高めるため、低金利を残価設定ローンの返済期間中だけ適用することもある。そうなると3年間の残価設定ローンを組み、3年後にそのクルマが気に入って改めてローンを組んで返済を続けようとすると、低金利の適用外になって返済額が高まるのだ。古いクルマに乗り続けて、返済額が増えるなら、以前と同じ返済額で新車を契約した方がトクした気分になる。そこでユーザーは新車に乗り替える。
このようなカラクリがあるから、残価設定ローンは、有効な販売促進対策として普及した。
ただし返済額が安いので、ユーザーは常に多額の債務を負担する。追突事故の被害者になると、自分の過失がなくても、返却時に精算が生じることもある。この損失まで加害者に請求するのは難しい。つまり残価設定ローンは、魅力的な代わりに、リスクの負担も大きいから注意したい。他人のクルマを借りているつもりで、大切に使いたい。