V12ミッドシップというレイアウトはテスタロッサに継承された
そしてBBシリーズで、180度V型12気筒エンジンのミッドシップを実現したフェラーリは、1980年代に入る頃から、その後継車の企画、開発に入ることになる。基本設計はもちろんミッドシップのままで、搭載エンジンも5リッター仕様の180度V型12気筒。これに、やはりKジェトロニックを組み合わせたヨーロッパ仕様では390馬力の最高出力を達成した。それがテスタロッサだ。
エクステリアデザインの特徴は、もちろん左右のドアからリヤフェンダーにかけてのスリット状のエアインテーク。サイドミラーはファーストモデルでは左側のAピラーセンターにひとつ装着されえていたのみだったが、それは1986年には左右のピラーの根本にレイアウトと数が変更されている。センターロックホイールを持つのもファーストモデルを見分ける特徴のひとつである。
そのマイナーチェンジ版である512TRは、フェラーリが重心高の高さや前後重量配分など、スポーツカーとしての基本的な設計を見直した意欲作だった。最大の特徴はスペースフレームを一体式に改めることなどによって、エンジンの重心高を低下。同時に前後重量配分もリヤに59%とする改善を行うなど、よりスポーツカーとしての操縦安定性を高める仕様変更を行ってきた。
エンジンは最高出力で428馬力。タイヤは18インチ径となり、ハンドリングはテスタロッサから驚くほどに高まった。ちなみにフェラーリは、この512TRで313.8km/hの最高速を公称している。
180度V型12気筒エンジンをミッドに搭載した最後のモデルはF512Mだ。M=モディフィカータの文字が物語るとおり、512TRのマイナーチェンジモデルとして誕生したF512Mは、前後の灯火類やボンネット上のNACAダクトなどが外観上の特徴。エンジンは5リッターのままだが、バルブスプリングは追従限界が1万rpmというバリアブルピッチのものに、またコンロッドなどにはチタンが使用されるなど、その内部での進化は着実に進められている。
最高出力は440馬力。365GT4BBの380馬力で始まった、フェラーリの180度V型12気筒エンジンは、途中パワーダウンなどの憂き目に遭いながらも、最終的にはここまでの進化を遂げるに至ったのだ。
そしてフェラーリは、このF512Mの後継車、すなわち次世代のV型12気筒2シーターを、ミッドシップではなく、再びFRの基本設計でデビューさせることを決断する。
1970年代から1990年代までを生きた、そしてスーパーカーの象徴ともいえるフェラーリのV12ミッドシップ。現在ではF50、エンツォ、ラ・フェラーリといったスペチアーレの象徴ともなっている設計だが、世界的に電動化の方向に舵を切りつつある今、フェラーリはV型12気筒エンジンを使ったスペチアーレを、将来生み出してくれるだろうか。それもまた我々の大きな興味の対象なのだが。