たかがクルマの運転じゃない! レーシングドライバーはトップアスリートでなければ完走すらできなかった (2/2ページ)

レーシングマシンの操作には高い身体能力が必要だ

 それまでクルマ専門誌編集部員として生活していた身にとって、国内トップフォーミュラの身体的負荷は想像を絶する厳しさだったのだ。

 ボロボロになってテストを終え、帰京した僕はただちに慈恵医科大学病院の「スポーツ外来」を受診した。F3000レースの開幕戦までに2カ月しかない。それまでに身体能力を少しでも高めなければレースを完走することすら難しいと思われたからだ。

 さっそくトレッドミルなどで基礎体力が測定された。マラソンの瀬古利彦選手やJリーガーなどもいる身体能力測定室で、厳しい測定試験を受ける。およそ5分で嘔吐しまくり、あまりの身体機能の低さに担当の遠藤陽一先生も呆れていたものだ。

 そこからトレーニングメニューを作成してもらい、2カ月後の開幕戦に備えなければならない。まずはストレッチを毎朝30分。その後油圧式エアロバイクを2時間漕ぐ。筋肉トレーニングは無酸素のアイソメトリック方式で、首を中心に腹筋や背筋も鍛えた。ツーリングカーやF3レースなど3年ほどプロレーサーとして活動してきていたので脹ら脛(ふくらはぎ)の筋肉はJリーガーと同等と判定され、反射神経もプロスポーツ選手としては高位の成績と診断されたのは意外だった。握力は両手65kg、また動態視力は7.0以上で、アフリカの原住民族並みという成績だった。

 こうして2カ月間をトレーニングと走行テストで過ごす。テスト走行には遠藤先生も帯同してくださり、走行中の心拍数変化を計測。走行後に採血して血液特性も調べた。それはオリンピックやプロ競技選手達が行うのと同じアプローチで、その結果モータースポーツの過酷な身体負荷が明らかとなり、より適したトレーニング方法が導き出された。

 心拍数は走行初期から190回/分を超え、血中のステロイド濃度が高まるなどモータースポーツの過酷さが示されたのだ。

 レーシングドライバーの運動量はマシンに乗って座席に座り、ステアリングとペダル、シフトを操作するだけでほかのプロスポーツより圧倒的に少ない。しかし、連続してかかる大きなG変化、重いステアリングやペダル、シフト操作などは一般人がトレーニングなしですぐに操れる代物ではないことが明確に示されたのだ。

 トップカテゴリーで走るレーシングドライバーは、オリンピアン同様に「トップアスリート」であるのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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