パーツ単位で走りをコーディネート
そうして生まれた4代目ロードスターには、原点回帰を最も強く意味する「S」グレードが設定されていました。あのヒラリヒラリとした初代ロードスターの乗り味を再現すべく、あえてリヤスタビライザーまで削ってセッティングしたグレードです。ただその意図が市場にはうまく伝わらず、なかなか評価されないまま6年が経過。本当にライトウエイトスポーツを楽しみたい人や、初代の乗り味を現代の安全性と快適性を備えたまま手に入れたい人に、どうしたらもっと響くだろうか。その絶好のチャンスが、キネマティックポスチャーコントロール(KPC)というコーナリング制御が導入される改良を行う、今回のタイミングだったということなのでしょう。
「990S」は「S」をベースとしつつ、足もとにはRAYSの鍛造ホイール「ZE40 RS」を装着して、1輪あたり800gの軽量化を実現。前後ともブレーキ性能が強化されて、フロントにはブレンボ製の大径ベンチレーテッドディスクと対向4ピストンキャリパーを装備しています。こうしてバネ下重量をしっかりと軽量化したところに加えて、KPCの働きが重要な意義をもたらしています。
走行中に0.3G以上の横Gが発生した場合に、Gの大きさに応じて内側の後輪に制動をかけることで、車体が斜めにロールする動きを抑えるのがKPCです。リヤスタビライザーを装備しない「S」では、コーナリング時の姿勢変化がドライバーの操る楽しさを生み出す持ち味でもあったのですが、そのスイートスポットとなる速度域がやや狭く、そこを超えてしまうとドライバーに不安を感じさせたり、物足りないと思わせたりするところが弱点でした。それが、KPCの導入によって適度に抑制されるようになり、ドライバーが楽しい、気持ちいいと感じる姿勢変化を幅広い速度域やシーンで作り出すことができるようになった。それが「990S」のもっとも大きな魅力ではないでしょうか。
こうして誕生した「990S」は、日本のドライバーにもっともっと運転を楽しんでほしい、スポーツカーを育ててほしいという、マツダからのメッセージとも言えます。「本当に、自分にも違いがわかるのかな?」と疑問に思うかもしれませんが、普通に一般道で走り出しただけで、きっと「あ、軽い!」と全身で感じるはず。
おそらく、純粋なガソリンモデルとして操れるロードスターはこれが最後となるでしょう。もし迷っているなら、後悔する前に「990S」を体感することをお勧めします。