【試乗】フィアット500eの「日和らない」感が最高! EVでもハンドリングやサイズはちゃんとチンクエチェントしてた (2/2ページ)

「速くはない、でも楽しい!」と感じさせる500e

 冒頭の”楽しいな”と”気持ちいいな”というのは、走りはじめた直後に感じたことだった。クルマが伝えてくるフィーリングが、とてもよかったのだ。ゼロ発進から高速道路の巡航まで、パワーとトルクのデリバリーが細かく行き届いていて、微速域でも高速域でも扱いやすいうえに反応が素直、そしていかなるときも滑らかだ。

 走行モードは3つあって、そのうちのノーマルモードではエンジン版の現行チンクエチェントを走らせてるかのように加減速も含めてとても自然な感覚で走れる。じつのところ──ほぼ満充電だったことも大きいのだろうが──BEVを走らせてることを忘れてたくらいだ。

 レンジモードに切り換えるとアクセルペダルだけで発進から停止までをまかなえるようになり、より強力な回生を得ることもできる。一気に”BEVに乗ってる”という感覚が強くなる。

 シェルパモードはナビゲーションシステムで設定した目的地やもっとも近い充電ステーションに確実に到達できるよう、電飾消費を最適化するモード。最高速度は2代目チンクエチェントのそれより遅い80km/hに抑えられ、アクセルレスポンスも調整され、空調装置やシートヒーターなどもオフにして、とにかく航続距離を稼ごうとする。

 あれ? スポーツモードは? と疑問に感じた人もおられるだろうが、じつはなし、である。ノーマルモードの状態でパワーもトルクもフルに使える設定になっている。アクセルペダルをグイッと踏み込むと、歴代フィアット500のなかで最強の加速力を楽しむことができて、速いか? と問われたら”そういうわけでもない”ぐらいに応えるしかないが、じつはこのときのフィーリングがBEVらしくなかなか爽快なのだ。アバルト595ほどではないけれど、わりと近いものがあるんじゃないか? と感じた瞬間があったほど。そこまでパワーやトルクを使い切ろうとしなくても十分に力強いから、普通に走っていて不満を覚えることもない。

 もちろんその辺りも喜ばしいと感じたわけだが、僕にとってのハイライトはハンドリングだった。僕の手元にある1970年式フィアット500Lもそうなのだけど、2代目チンクエチェントの楽しさの源のひとつは、ステアリングを操作して前輪が反応した瞬間に後輪まで反応して全身で旋回に入るかのような、曲がる楽しさにある。以外やスポーティなフィーリングなのだ。それは2007年デビューの現行エンジン版チンクエチェントにも受け継がれている。

 ここが鈍かったりすると、チンクエチェント・ファンとしては興醒めしそうだけど、真新しい500eはどうなんだ? と興味津々だったのだ。いや、そのテイストがしっかりと感じられたのだから、嬉しくなる。バッテリーをフロアに敷いたことによる重心の低さが活かされていて、素晴らしい気持ちよさを味わわせながら曲がっていくのだ。

 しかもコーナリングスピードも、間違いなく歴代ナンバーワン。走る楽しさと気持ちよさは、BEVとなっても1グラムも失われていなかった。つけ加えるなら直進時の安定感も乗り心地のよさも、エンジン版をしのいでる。重さを──といっても1320〜1360kg程度だけど──をしっかり活かしたシャシーのチューニングがなされてる証である。

 ラインアップには装備の異なるふたつの3ドアハッチバックと、2ドアのオープントップが用意されている。そのオープントップ版でゆっくり流していたら、春の心地いい風と一緒に横浜の街の息吹がすべて車内に滑り込んできた。オープントップの量産BEVは世界初だったと思うが、街の音を楽しむことのできる静けさというのはとても新鮮だった。そんな具合に、走らせてる間中ずっと、僕はクチモトが緩みっぱなしだったのだ。

 その嬉しさの理由を言葉にして説明するのは、ちょっとばかり難しい。いろんなコトやモノがよってたかって気持ちにくすぐりをかけてくるから、そうした感覚のひとつひとつを言語に置き換えないとならないからだ。ただひとつはっきりと痛感したのは、チンクエチェントを駆る歓びってパワートレインが何であろうとあまり関係のない普遍的なものなんだな、ということ。そう感じさせてくれたということは、500eは紛うことなきチンクエチェントである、ということの証でもある。

 1970年式フィアット500Lの隣に2022年式フィアット500eオープンを並べて暮らしたら、どんなに楽しいだろう……? どちらも微妙に不便なところのあるクルマではあるけれど、間違いなく日々が豊かになる気がしている。

 ちなみにフィアット500eの販売は、サブスクリプションとリースのみというカタチ。シンプルな定額プランが用意され、契約が終了した後には車両が100%ディーラーに戻るというサステイナブルな車両購入環境をが構築されている。月額利用料の一例ではあるが、サブスクリプション型では500eポップが5万3900円でボーナス払い11万円×10回、個人型カーリースプランでは同じく500eポップが3万4000円でボーナス払い11万円×10回、といった具合だ。

 6月ぐらいからクルマがショールームに並ぶ予定とのことなので、クルマを見に行きがてら詳細をスタッフの方に訊ねてみることを強くオススメする。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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