謎だったもう1台のブリット・マスタングの行方
これを手に入れた(わずか6000ドル)のがロバート・キアナン氏で、息子のショーンの代まで手元に残し、最終的にはオークションによって3億7000万円(当時)という価格で売却されたというニュース、ご存じの方も少なくないでしょう。
ここで気になるのはもう1台のブリット・マスタング。少し調べてみると「スクラップにされた」とか「廃車にするしかなかった」と悲しい知らせがほとんど。実はスクラップ同然には違いなかったのですが、このクルマは流れながれてメキシコにたどり着いていたのです。
1960年代のメキシコならば、ボロボロガタガタであろうともマスタングといえば「お宝」だったことは想像にかたくありません。早速、商売熱心な工場主がレストアを開始。曲がったフレームを直し、扱いづらいエンジンをどうにかなだめ、コニのダンパーも「硬い」てな理由で替えられてしまったかもしれません。
さらに、ブリット・マスタングのポイントでもあるダスティなハイランドグリーンも「汚ねぇな」とかなんとか言われたのでしょう、こともあろうにホワイトにリペイントされてしまったのです。もっとも、直したほうもまさかマックイーンが撮影に使ったクルマとは知らなかったのでしょうから、無理もないことかもしれません。
こうした事実は、フォードがブリット仕様マスタングのプロモーション(2001、2008、2018年の3回あります)に向けた調査で明らかになったようです。なるほど、バーンファインド(納屋や倉庫に長期間放置されたお宝マシン。近年では岐阜で発見されたフェラーリ・デイトナが有名)でひとやま当てようとする専門家がいるアメリカらしいエピソード。
※画像は納谷に隠されていたブリット・マスタングのイメージ
ですが、せっかく見つけたブリット・マスタングも、アメリカ国内にあった1台とは大違いな様相にフォード首脳陣は「いらない」と判断。晩年のバド・イーキンスも発見の知らせに対し「(あのポンコツを直したなんて)ありえない」と目を丸くしたとかしないとか。よほど無茶なスタントをこなしたことがあらためてうかがえます。また、マックイーンが存命中だったとしても手は出さなかったのではないでしょうか(マックイーンはもう1台のオーナー、キアナン氏にマスタングを譲ってほしいと手紙を書いた際、改造の有無を気にしていました)。
とはいえ、いまとなってはポンコツ同然のマスタングを修理したメキシコ人工場主の熱意と腕前を賞賛すべきでしょう。白いブリット・マスタングは、いまでも元気にメキシコの地で走りまわっていそうな気がしてなりません。
※画像は1968年式フォード・マスタングGT
億単位の値段でどこか博物館に所蔵されるのも結構ですが、知らん顔してメキシコを走っているマスタングを想像するとまた楽しくなってきませんか。