この記事をまとめると
■かつて多くのメーカーがセダンをベースにしたピックアップトラックを販売していた
■セダンの快適性とピックアップトラックの実用性を融合した車として誕生した
■フルフレームのピックアップトラックの快適性が増した現在ではその存在意義はほぼない
背の低い流麗なスタイルのピックアップが存在した
セダンピックアップと訊いて、おそらく多くの読者諸兄が「なんじゃそりゃ?」となるか、「文字ヅラで意味はわかるけど、どんな車種だっけ?」となることだろう。素直に解釈すればセダンとピックアップのハイブリッド的なクルマのことで、アメリカでは1957年に登場したフォードのランチェロ、日本では1955年に発売されたトヨペット・マスターライン・ピックアップあたりが純メーカー製のクルマとしては先駆者的存在である。
ここで敢えて、純メーカー製と断りを入れたのは、それ以前にも個人や、小規模のコーチビルダーがセダンをベースに車体後半を荷台に作りかえてピックアップ化、あるいはトラック化する例は珍しいことではなかったからだ。
セダンピックアップの定義は厳密にあるわけではないが、基本的にはセダンやハッチバックなどパッセンジャーカーの派生モデルとして誕生したモデルをそう呼ぶ。そのため、ピックアップとして専用に設計されたハイラックスやダットラ(ダットサントラック)などはそれには当たらない。
では、敢えてセダンピックアップという、いわば”亜種”を生み出した自動車メーカーの狙いとはどこにあったのかといえば、アメリカの場合であればもっとも重んじられたのはその”快適性とユーティリティの融合”であった。換言すれば乗用車のような乗り心地、運転のしやすさ、そして動力性能とハーフトン程度の積載能力の両立。それは、ピックアップ大国のアメリカ、そしてオーストラリアなどで大いにウケた。ちなみにオーストラリアではセダンピックアップというよりもUTE(Utility vehicleの略称といわれる)と呼ぶのがメジャーで、古くは1920~1930年代から、フォードやGM(シボレー)がその生産を行っている。
つまるところ、従来のピックアップといえば、実用性重視でタフであることが一番で、フルフレームのシャシー、そこに組み込まれた堅牢かつハードな乗り心地のガチガチの足まわりと、ローギヤードなパワートレインがマストであったため、「そんなに荷物は積めなくていいから、もう少し気楽に乗りたい」というライトユーザー層にブレイクしたのがセダンピックアップということになる。
日本で販売されたセダンピックアップといえば、もっとも最後まで生き延びたのがサニトラで、その前に北米仕向のスバル・レオーネベースのBRAT(ブラット)、さらに軽自動車のセルボをベースにしたマイティボーイあたりが記憶に残るところ。
さらに追っていけば初代~4代目クラウンに設定されたマスターライン/クラウンピックアップ、2~3代目コロナのコロナライン/コロナピックアップ、初代スカイラインから派生したスカイウェイ他、かなりのモデルが販売されているが、いずれも現在はその系譜は絶たれている。
日本のセダンピックアップの多くは、諸外国のように、快適性云々よりも、安価に小型トラックとして派生させることができるモデルとして生み出されるケースが多かったため、やや特殊な存在といえるかもしれない。