1日の走行距離を予測しやすい路線バスは燃料電池向き
国内では、MIRAIの燃料電池スタックを活用した路線バスが、都内で走っている。MIRAIの燃料電池スタックの、部品としての保障は5年または10万kmとされているが、路線バス用の燃料電池スタックは120万km走れるのだという。これは、車載のバッテリーを積極活用し、負荷が大きくなる走行ではバッテリーに充電された電力を使う制御にしているからだ。
市街地の停留所を巡回する路線バスは、信号機での発進・停止を含め頻繁に加減速するので、回生によるバッテリー充電に期待することができる。走りっぱなしとなりがちな長距離トラックや高速バスに比べ、燃料電池スタックへの負荷は少ないだろう。路線バスは、一日の走行距離も特定しやすい。水素タンクへの一充填走行距離を極端に長く設ける必要もない。
そもそも、乗用FCVに車載される水素タンクの70MPa(メガパスカル)という高圧は、水素充填に際し水素ガスを圧縮しながら冷却もする必要があり、二酸化炭素(CO2)排出量を増加させかねない状況にある。これを半分の35MPaにできれば、圧縮はしても冷却の必要がなくなる。一充填走行距離は短くなるが、一日の営業走行距離が明確な路線バスなら差支えないのではないか。
乗用のFCVでは水素ステーションの整備が進まないため、MIRAIのホームページを見ても現在157軒しか検索できない。なおかつ、そのうち17軒は移動式または臨時の施設だ。その点、路線バスであれば、営業所の駐車場に充填設備を設けることで、自前で水素充填できる。あとは、収支に見合う水素の価格次第だろう。
長距離トラックや高速バスは、燃料電池スタックへの負荷の高い状態で走り続けることになる。そこで既存のディーゼルエンジン車に匹敵する耐久性を危ぶむ声が、トラック・バスのメーカーから出ている。
水素社会を目指す声が根強いが、燃料電池の活用は適材適所を見極め、交通社会では路線バス、ほかは家庭用のエネファームなど定置型で活かすのがよさそうだ。