ドリキン土屋圭市も唸ったホイールの真価
山本「想いが伝わったわけですね。試作品をテストしてみて、どうでした?」
湯沢「10セット以上作っていただきましたが、乗り比べると『全然違うな』と。硬いだけだと限界を超えると一気に弾かれてしまいますが、しなやかさがあるとジワーッと粘ります。限界付近でも情報をシッカリ伝え、タイヤと対話できる領域が広がりました。そこで土屋さんに乗ってもらおうと相談してみると、なぜか微妙な反応でした」
山本「レースの世界では『ホイールの良し悪しでタイムが変わる』と言われていますが、なぜ微妙な反応だったのでしょうか?」
土屋「話を聞いて『ホンダアクセス、頭おかしくなった?』と思った(笑)。ホイールでタイムも乗り味も変わる事はオレも理解しているけど、それは重箱の隅まで突くレーシングカーでの話。市販車はボディがたわむ上に、至る所にゴムブッシュが付いてるし、ましてや軽自動車でしょ?、『違いは解らないよ』と」
山本「ホンダアクセス側の反応はどうでしたか?」
土屋「湯沢さん含めホンダアクセスの開発者はそう言っても聞かないので、仕方なく乗ると、『あれっ、全然違うな』と。何が違うかと言うと、サスペンションのセッティングまで変えたかのような『乗り味の質感』だ。恐らくボディ剛性とホイール剛性の周波数が合ったことで、ノーマルの潜在能力がさらに引き出されたんだろうね。だから、スポーツ走行時にタイヤのグリップが下がった状態でもクルマが突然裏切らないし、路面からの情報が的確なので『ここまでイケる』とジワっと伝えてくれる。そういう意味で言うと『飛ばした時に運転が楽になるホイール』と言った感じだね」
湯沢「土屋さんには『でも、軽でここまでやるの?』と言われました」
土屋「だって、S660は前後のホイールサイズが違うから金型が2つ必要なんだよ。金勘定を考えたら躊躇するのは当然だけど、それをやらせてくれるホンダアクセスという会社も凄いと思うよ」
山本「ちなみにコンプリートカー(Modulo X)はクルマとしてのバランスが求められますが、アクセサリーは単品での性能も求められます。その辺りのバランスは?」
湯沢「S660の場合でいうと、Moduloのパフォーマンスパーツをすべて装着した状態で、Modulo Xに匹敵する乗り味が得られるようにセッティングを行ない、その効果を単品で確認……と言う考え方です。ちなみに、S660のModuloパフォーマンスパーツの開発時には、まだS660 Modulo Xの開発計画は一切ありませんでした。しかし我々開発チームにはいずれModulo Xをやりたいという願望はありましたから、これらのModuloパフォーマンスパーツがModulo Xにも装着することになってもいいように、という想いはありました」
土屋「Moduloが目指す走りの方向性は『ノーマルの良さを活かしつつ、より走りにこだわる人のために、ストライクゾーンの真ん中にする』と明確だから、コンプリートカーのModulo XもModuloのパフォーマンスパーツも同じベクトルの乗り味に仕上がる」
山本「ホイールもサスペンションの一部という開発思想がホンダアクセスにはありますね」
湯沢「『路面からの入力はどのようしてドライバーに伝わるのか?』。それを考えれば、ホイールには何が必要か解るはずです」
土屋「ホイールは軽さとカッコ良さだけでなく、“乗り味”で選んで欲しいね」
山本「ちなみにS660用アルミホイールの知見やノウハウは、他のモデルにも?」
湯沢「その後に登場したModulo X(先代VEZEL、FIT、新型VEZEL)のアルミホイールには、この考え方が全て盛り込まれています。とくに最近はアルミホイールがModulo Xの乗り味を左右するまでに進化しています」
「高剛性であればあるほど良い」というアルミホイールの常識を疑うとこからはじまったS660のModuloアルミホイール。この設計思想は脈々と受け継がれて、現在ではサスペンション、実効空力エアロと並んでModulo X三種の神器となっている。ぜひ、Modulo Xに乗る際はアルミホイールにも着目してみて欲しい。