VWの不正がクルマの電動化加速のきっかけだった
さて、同じ2015年9月にはもうひとつ、クルマの電動化にシフトさせるきっかけになった大きな事件が起きている。それが9月18日、アメリカ環境保護庁による「VWグループのモデルに『ディフートデバイス』が採用されている」という発表だ。
当時、話題になったので覚えている人も多いだろうが、ディフートデバイスというのは排ガス検査を検知すると、実際とは異なる検査モードのプログラムでエンジンを動かして検査をクリアしようとする機能。禁じ手といえるこの機能を、VWグループのディーゼルエンジン車が搭載していたことが大問題となった。のちに「ディーゼルゲート」と呼ばれるようになった大事件である。
自動車業界ではドイツ車というのはテクノロジーリーダーであり、そのドイツが推しているクリーンディーゼルというのは環境対応としてはもっとも正解に近いというムードがあった。しかし、2015年9月に明らかとなったディーゼルゲートによって、市場はディーゼルエンジンへの不信感を抱くようになる。もはや真のクリーンディーゼルを実現したとしてもブランドイメージの回復は難しい状況になっていった。
そこでVWグループは、電動化に一気に舵を切る。ゼロエミッション化こそが正しい環境系パワートレインというメッセージを送り続けた。
欧州では、ディーゼルのみならずガソリンエンジンも悪と位置づけた。おそらく2016年にドイツ政府が将来的な内燃機関の販売禁止を検討していることを示したのもきっかけになったのだろう。各国が2030~2040年あたりを目途にエンジン車廃止という政策をアピールするようになる。
その背景にあるのは、2015年11月~12月に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の結果として定められた枠組み、いわゆる「パリ協定」だ。気候変動というのは地球温暖化という表現でも知られているもので、要は人為的なCO2排出量を低減しようというもの。
これにより「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求すること」という具体的な目標も定められた。こうした目標に自動車業界として対応していくこと、そして直前にディーゼルゲートが起きてしまいエンジンへの不信感が生まれていたことが、クルマの電動化を加速させるきっかけになったといえるだろう。
ちなみに、持続可能な開発目標「SDGs」が国連サミットで採択されたのも2015年9月。まさに、2015年の下半期に現在の脱エンジンの流れは生まれていたといえるのだ。