世界最高峰のラリーがなんで「お母さんの買い物のクルマ」的な小型ハッチばっかりなのか? (2/2ページ)

Rally1がハッチバックばかりのWRCを変えるかもしれない

 さらに前述のとおり、2017年に幕を開けた第3期WRカー時代には空力デバイスが規制緩和されることになったのだが、その際にもピノンは、「WRカー規定モデルもR5規定モデルもR3規定モデルもすべてコンパクトハッチで、“お母さんの買い物のクルマ”に見えるからトップクラスは差別化があっていいと思うけど、個人的にラリーカーに大胆なエアロは必要ないと思う」と語っていただけに、ラリー競技においては、セダンであっても、ハッチバックであっても空力面において大きな違いはない……ということだろう。

 その一方で「規定がある以上、空力デバイスは重要になってくることからきちんと開発したい」とピノンが語るように、第3期WRカー時代の2017年にシトロエンがWRCに復帰した際は、大胆なエアロを装着したC3を投入していた。

 さらに、2017年にWRCへ復帰したトヨタGAZOOレーシングでテクニカルディレクターを務めるトム・ファウラーも「エアロデバイスの自由度が高くなったので、空力パッケージがより重要になった」と語っていたほか、2022年のRally1規定モデルに対して勝田貴元も「空力パーツが制限されたことで高速域での安定感もWRカーとRally1では違います。WRカーではナチュラルな挙動だったけれど、Rally1では不安定な感覚がある」と語っているだけに、空力パーツの有効性は明らかである。

 それゆえに、ハッチバック車両がベースになっているとはいえ、エアロフォルムが追求されるようになってはいるが、ラリー競技ではセダンが有利……というレギュレーションにはなっていないだけに、今後も当面の間、WRCではハッチバック車両が主流になるだろう。

 とはいえ、2022年のWRCで興味深いポイントが、Mスポーツ・フォードが主力モデルとしてフィエスタではなく、プーマを選んだことだ。Rally1規定モデルはサイズの拡大・縮小などのスケーリングが実施可能で、Mスポーツ・フォードはフォードのマーケティングの関係から小型SUVをベース車両として選択した。

 つまり、スケーリングを認めたRally1規定ではベース車両の選択肢が増えていることから、メーカーのマーケティングによってはクーペなどのスポーツカーをラリー1規定モデルとして開発することも不可能ではない。

 Rally1規定は、現在WRCに参戦中のトヨタ、ヒュンダイ、Mスポート・フォードのほか、他メーカーの新規参戦を促すきっかけとなりうるだけに、近い将来、他のメーカーからスポーツクーペやスポーツセダンが参戦してくる日を楽しみにしたい。


廣本 泉 HIROMOTO IZUMI

JMS(日本モータースポーツ記者会)会員

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