この記事をまとめると ■クルマ性能競争の中で「ターボ vs DOHC」という言葉が盛んに使われた時代があった
■自主規制下で280馬力を達成するターボ車は多かったがNAで実現したものほとんどない
■3リッターNAで280馬力を達成したNSX はいかにもエンジン屋のホンダらしい
パワー戦争で「ターボ vs DOHC」がフォーカスされた 順調な発展を遂げてきたように思える日本のモータリゼーション史で、黒い雲が垂れ込めたような非常に憂鬱な時代があった。1970年代初頭から終盤まで自動車メーカーを悩ませた排出ガス規制対策の時代である。
しかし、1970年代終盤に昭和53年排出ガス規制をクリアすると、自動車メーカーは一転して性能競争を繰り広げる時代に突入する。こうした上昇志向のなかで「ターボ vs DOHC」という言葉は生まれていた。いま振り返ってもおかしな表現だが、当時は、高回転高出力型のDOHCか、過給圧で出力/トルクを大きく引き上げたターボか、という視点の比較だった。
端的に言ってしまえば、パルブの開閉機構と吸入気を加圧するターボはまったくの別物で、技術視点で比較するべきものではなかったが、当時、メーカーが採用していた高性能エンジンメカニズムが、ターボ(SOHC)とDOHC(4バルブも登場)だったことを捉えての表現だった。もっとも、しばらくたってこの両者を組み合わせたターボ+DOHCが登場すると、当然ながらこの表現は、過去のものとして忘れ去られていくことになる。
日産スカイライン2000RSの走行シーン 画像はこちら
この性能競争は、1980年代終盤、自動車メーカー間での申し合わせ事項、エンジン出力の上限を280馬力とする自主規制が取り決められて以降、鳴りをひそめるかたちとなったが、技術革新のペースは速く、当初はごく一部の3リッター級ターボエンジンのみが達成していた280馬力の上限値は、1990年代中盤には2リッターターボが楽々とマークするようになっていた。考えてもみれば、ターボエンジンは1.5リッターの排気量から1500馬力を絞り出していたF1の例もあるほどだ。過給圧を高めれば、無限とは言わないが、自然吸気エンジンの排気量からは考えられないほどの高出力を発生することも可能である。
日産フェアレディZの走行シーン 画像はこちら
一方、自然吸気エンジンは、吸入した空気量(酸素量)に対して適正なガソリン量(適正空燃比=重量比)を供給する考え方が基本となり、高出力を得ようとすれば、熱効率の向上、燃焼効率の改善、エンジン回転数の引き上げといった手法で臨むことになる。
ホンダNSXの走行シーン 画像はこちら
いずれも燃焼解析や熱力学、機械工学や材料工学など研究の積み重ねによって得られるもので、一朝一夕に為し得るものではなかった。