加速・旋回・減速という一連のクルマの動きがしっかりしている
話を本筋に戻すと、ノア/ヴォクシーのパワートレインは4種類が用意されている。もっともベーシックな2リッター直4のFFと4WD、そして1.8リッター直4+ハイブリッドのFFとリヤにもモーターを持つ4WD、E-Fourだ。このうちの2リッター+4WDを除く3タイプに、都心の道をそれぞれ10〜20分程度という限定的な試乗になってしまったが、試乗することができた。
その中で個人的にもっとも好感を持ったのは、意外なことに2.0リッター+FFのモデルだった。新たに搭載されることになった現行のハリアーやRAV4などと同じ直4自然吸気エンジンと、10速ダイレクトシフトCVTの組み合わせ。
それが望外にクルマを軽快に走らせてくれるし、エンジンのサウンドが耳障りじゃなくむしろ回すと快い感じで、ちょっと気持ちいいなと思わされたからだ。動力性能的にも不満らしい不満はまったくない。なのにハイブリッドより40万円近くも安価であることを考えると、これがベストチョイスなんじゃないか? なんて感じられるのだ。
けれど、この御時世だ。やっぱりハイブリッドが欲しい、という人も多いことだろう。もちろんハイブリッド+FFも悪くない。バッテリー残量があるときのモーターだけで走る感覚には内燃機関のみのものとは異なる感覚があって、重厚にして静かで快適で力強い。
ハイブリッドのシステムはプリウスなどより世代がひとつ新しい最新バージョンに進化していて、ただでさえトルクが素早く強力に立ちあがるモーターによる加速も、アクセルの踏み加減に対するツキがさらによくなったような印象がある。トヨタのほかのハイブリッドモデルよりも全体的に滑らかさを増した感触まであって、そういうところも心地好い。
とはいえ、せっかく電動化モデルを選ぶなら、ハイブリッド+4WDのE-Fourを選びたいところだ。悪天候や高速走行時などあらゆる場面で安定感が高いのはいうまでもないだろうが、何より加速してるときやカーブを抜けていくときに、リヤ側のモーターにも駆動が積極的かつ巧みに配分されてるのがフィーリングとして伝わってきて、その感覚が走る楽しさを生み出している。
RAV4などのE-Fourよりも後輪のトルクが高められてるのが効いてるのだろう。それに、今回は試乗環境的に体験するのは不可能だったのだけど、ステアリングの操舵角が21度以上になるとリヤ側の駆動力配分が膨らむようにチューニングされてるのだという。ということは、もしかしたらワインディングロードなどをもっと楽しく走れるのかも知れない、なんて思ったりもする。
ミニバンだというのにうっかりそんなことを考えちゃったのは、シャシーがしっかりしていて、3車とも乗り心地が快適といえる範疇にあるのはもちろんなのだけど、車体の左右の傾きが上手く抑制されてるうえに加減速によるタイヤの接地感の変化がちゃんと伝わってきて、加速・旋回・減速という一連のクルマの動きが、想像していたより遙かによく躾けられてるように感じたことが大きい。
たとえばヨーロッパで開催される国際試乗会だとか現地の知人と合流して取材に出掛けるときなど、空港で拾ってもらい、欧州産ミニバンの助手席や後席に積まれて日本の3割増ぐらいの速度で移動することが多い。そうしたときにドライバーの操作とクルマの動きを観察していると、両者の調和のとれた動きとピシッとした走りっぷりに感心させられる。最初に白状したとおり、僕は日本のミニバンのことを熟知してるわけじゃないから説得力はないかも知れないけど、新しいノア/ヴォクシーは、すでにそういう領域にいるといっても過言じゃない。
それでいてシートから車室内を見渡すと、今さらだけど便利で効果的な収納がこれでもかというくらいに用意されてたり、あちこちに使いやすいよう工夫がこらされてたり、と日本人ならではの細やかな気配りがたっぷりとクルマに溶け込んでいる。もしかしたら日本のミニバンって──というかトヨタ・ノア/ヴォクシーって、世界のミニバンの最高レベルにあるんじゃないか? なんて思わされてしまった。
ただ、めちゃめちゃ個人的な感想なのだけど、ひとつだけどうしても引っ掛かることがある。これを好きな人が少なくないのも知ってるから僕がマイノリティなのだろうし、この方が販売台数を稼げるだろうことも解ってる。でも家族で、あるいは仲間同士で、皆で一緒に楽しい時間を過ごすためのクルマに、こういう威圧感たっぷりの怖い顔って必要?
いや、それはノア/ヴォクシーだけじゃなくて、最近のトレンドではあるのだ。けれど路上で威嚇し合ってるようなその風体に、僕はどうしても賛同することができないのだ。
大切なのはラブ&ピース、そう思うのだ。