限定77台のオーダーリストは瞬時に埋められた
個人的にいまでも忘れることができないのは、2008年のパリサロンにおけるONE-77のディスプレイだ。同年のジュネーブショーでその存在を公にしながら、その半年後に開催されたパリサロンでは、そのほとんどがヴェールに覆われたモックアップのONE-77が展示されていた。ここに至ってもまだティーザー(その一部だけを見せてカスタマーやメディアを焦らす広告戦略のことね)で我々を翻弄するのかと思いつつ、もしかしたらアンヴェールされるのではないかと、数時間に一度はアストンマーティンのブースに足を運んだのだった。
そういえばそれまでフォードのPAG(プレミアム・オートモービル・グループ)に属していたアストンマーティンだけれど、そこから抜けた途端に、ブースも何となく寂しい場所と雰囲気に変わってしまったことを今でも覚えている。
さてクルマとともに印象的だったのが、そのティーザーに使われるためのピンストライプ入りの美しいヴェールだ。広報の担当者によれば、このヴェールはアストンマーティンと同様にロイヤルワラント、すなわち英国王室御用達の紳士服テーラーで、すでに200年以上もの歴史を持つあのヘンリー・プールが仕立てたものなのだという。彼らが15番地に本社を構えるロンドンのサヴィルロー通りといえば、数多くの紳士服テーラーがあることで知られているが、ヘンリー・プールはその中でももっとも長い伝統を持つテーラーだ。
参考までにこのヴェール、当日に自分が来ていたスーツと比較すると、生地の大きさを見ても価格は100倍以上するのでは。ONE-77は無理でも、ヘンリー・プールのスーツくらいは緊張しないで買える男になりたい。そんなことを考えたパリサロンだったことを思い出してしまった。
後にそのスタイリングが公にされたONE-77は、そのパフォーマンスにおいても非常に大きな魅力を持つ一台だった。フロントミッドシップされるV型12気筒エンジンは、最高出力が760馬力、最大トルクは750Nmというスペック。それによって0-100km/h加速を3.7秒でこなし、その加速は最高速の354km/hまで続く。
それはまさに芸術的なデザインときわめて優秀なパフォーマンスの融合であり、そして77台のONE-77は、当時世界最高のGTとして一瞬でそのオーダーリストが埋められたのだった。