枯れた技術のビスカスカップリングがいい!
まずはフィットのAWDを試す。二年前の冬に鷹栖のテストコースで初試乗したことがあるが、メカニズムはトランスファーにビスカスカップリングを使っている。少し説明が必要だが、数十枚の薄い多板を満たすようにシリコンオイルを封入したビスカスカップリングのトランスファーは、一時ポルシェ911カレラ4も採用するほど、昔のスター的トランスファーだったが、前後輪のタイヤの回転数差でパッシブにトルクを伝達するビスカスは、電子制御時代には過去の技術となってしまった。
しかし、ホンダはフィット用のトランスファーを色々と検討しているとき、モーターと組み合わせると、昔のビスカスではできなかった緻密な制御ができることを発見した。コンパクトで軽量ボディのフィットには、シリコンオイルの剪断抵抗でトルクを伝えるメカニズムでも、十分なポテンシャルを持っているし、何もよりもインプット側はモーターなので、エンジンの回転数を制御する従来型ではないので、非常に緻密にビスカスを使えると判断した。エンジンのトルクを伝えていた昔のエンジン車のビスカス四駆とは異なり、素早く緻密に制御できるモーターの特性は、紛れもなくビスカスカップリングの性能を蘇らせたのである。
だからなんちゃって四駆なんて悪口をいう必要はなく、FFベースのAWDという駆動方式と見事な連携で、非常に走りやすかった。
世界にはさまざまな四駆が存在するが、レオーネ四駆の産湯に使って育った私は、前輪駆動ベースのAWDが理想的であると、経験則から信じている。その意味では、機構的に分析すると、左右対称のスバルとアウディのAWDが松、FFベースのAWDが竹、FRベースのAWDは梅ではないだろか。しかし、こうした状況は、藤井聡太棋士の将棋でもわかるように、ときには定石を覆す技術も登場する。そんな予想外の、いや期待以上の走りを示したのが、このビスカスとモーターのフィットAWDなのである。
初代フィットは1モーター+DCTのギヤボックスを備えたビスカスAWDだったが、今のフィットはシリーズハイブリット(高速ではパートタイム)なので、モーターが駆動力の原資なのだ。だから同じビスカスでも、最新フィットは先代とは異なる特性をもつ。
もう少し詳しくメカニズムを説明すると、主駆動輪はフロントタイヤだが、リヤタイヤよりも多くフロントタイヤが滑ると、ビスカスはリヤタイヤにトルクを伝える。だが、最新フィットはエンジンで発電した電気でモーター駆動する。もしタイヤが滑ると、モーターはダイレクトに検知できるので、電気制御はすこぶる早い。エンジンやギヤボックスというヒステリシスの多いシステムを経由しないので、モーターはタイヤの滑りをすぐに制御できるのだ。
駆動方式は、滑りやすい路面では圧倒的にFFが有利だ。前足でクルマを引っ張るので、方向性はFRよりも数段優れている。FRベースのAWDはどうか? という疑問もあるが、同じAWDでもFFベースは走りやすい。ということで、今回試乗したコースではFRベースのAWDがなかったが、フィットの走りは光っていた。
雪道で大切なことは二輪駆動か四輪駆動かということよりも、タイヤと路面がねちっこく接地できるサスペンションが実現されているかどうかだ。というのは雪道は例外なく凸凹しているので、タイヤと路面の接地性は、スノードライブの一丁目一番地なのである。その点でもフィットのサスペンションは合格なのである。本当は先代フィットと同じパワートレインを持つHEV・AWDのセダンであるグレースがオススメだが、ホンダは生産をやめてしまった。ということで、コンパクトカーのベストAWDはフィットで間違いなだろう。