ハンデを背負わせることで最終戦までドキドキの展開を演出
2021年のスーパーGTにアウディR8(6号車)でGT300クラスに参戦した本山 哲は、開幕戦の岡山を終えた時、「アウディR8はヨーロッパではパフォーマンスが高いけれど、GT300クラスでは独自の性能調整とタイヤ競争の影響でアドバンテージがあるわけではない。スーパーGTではかなり厳しい戦いになると思う」と語っていた。
そしてその言葉どおり、2021年のGT300クラスでFIA-GT3勢が獲得した勝利は、開幕戦・岡山を制したニッサンGT-R(56号車)と第7戦・もてぎを制したアウディR8(21号車)の2勝のみ。残りの6勝はトヨタGRスープラとトヨタ・プリウス、スバルBRZ、ロータス・エボーラとGT300車両およびGT300マザーシャーシが分け合うなど、FIA-GT3勢が苦戦を強いられることとなった。
以上、簡単に独自の性能調整とタイヤ競争について触れてきたが、2021年のGT300クラスでGT300車両およびGT300マザーシャーシが活躍した要因は、彼らのマシンのパフォーマンスが純粋に優れていたからにほかならない。
タイトルを獲得したスバルBRZについては新型モデルのフォルムで空力性能が向上したほか、エンジンもブラッシュアップされていた。さらに、GRスープラも、2勝をマークした60号車、第2戦を制した244号車、勝てなかったとはいえ常に上位争いを左右した52号車といずれも著しい進化を遂げていた。第6戦を制したトヨタ・プリウス、第4戦を制したロータス・エボーラも細部まで熟成されていたことは言うまでもない。
つまり、優勝したGT300車両およびGT300マザーシャーシも性能調整だけで勝てたわけではなく、あくまでも勝てるマシンに仕上げた各チームの開発能力と両ドライバーのポテンシャル、そして巧みなレースマネジメントで掴んだ勝利であったことを誤解なきように触れておきたい。
なお、筆者はGT300クラスの性能調整とタイヤ競争を”ゆがみ”の要因と書いたが、一方で、その”ゆがみ”は”魅力”だと思っている。この独自の性能調整があるからこそ、GT300クラスは世界最多の車種バリエーションを誇るシリーズとして発展することができたし、ドラマチックなレースを演出することに成功している。これだけエンターテイメント性の高いカテゴリーは世界的に見ても珍しく、世界最速のGTカーと謳われるGT500クラスとともにGT300クラスも魅力的なレースと言えるだろう。
2022年のスーパーGTはGT300車両のGRスープラの増加が予想されているが、FIA-GT3勢もマシンの熟成を極めているだけに、開幕戦から最終戦まで熾烈なバトルが展開されるに違いない。