EVの値下がりには輸送コストやレアメタルなどが大きく影響する
EVに車載されるリチウムイオンバッテリーは、ワッセナー協約の対象品目であり、かつてのココム協約と同じように部品での輸出入に制約がある。したがって、EV生産工場の近くで入手することがカギを握り、その意味でも、バッテリー工場と隣接したEV工場建設はEVにとって重要な戦略だ。テスラの上海工場は、以上のような意味で日本にとって好都合となり、大幅値下げが実現している。逆に遠隔地となった米国では値上がりしたという。
次に、リチウムイオンバッテリーについても、全個体電池への期待が高かったが、量産性に課題がありそうだ。同時にまた、既存のリチウムイオンバッテリーについても、電極に使われるニッケルの価格が上昇し、コバルトは資源量が限られる。一方、マンガン酸やリン酸鉄など、別の金属リチウムを電極に使う道もあり、フォルクスワーゲンは車格によって電極材料を使い分けることを表明している。適材適所で材料を選択することにより、車格にあわせた値下げの道が拓かれるだろう。
ほかにも、多くのEVが使う永久磁石式同期モーターは、希土類元素(レアアース)の金属が使われている。これによって、一般的なフェライト磁石の10倍の磁力を活かし、小型高性能モーターなっている。しかし、EVの普及が進むと、希少金属の値が上がる懸念がある。
すでに希土類元素の使用量を減らすことが行われているが、あわせて、テスラはもちろん、アウディやメルセデス・ベンツは誘導モーターの採用を始めている。誘導モーターとは、鉄芯に銅線を巻き付けた電磁石を使う。鉄も銅も安く手に入る。高性能化するには巻き線を増やす必要があり大型化する傾向があるが、全自動による巻き線を実現すれば、小型高性能化の道が拓けなくはない。その生産技術の特許を、日本人が取得している。
日本は高度な技術で高性能を出すのは得意だが、既存であったり汎用だったりする技術で商品性を高める工夫が苦手だ。しかし、今後は誘導モーターの活用も視野に入れるべきだろう。
自動運転と通信技術を合体した自動運転EVによる共同利用により、保有台数を減らすことも未来を拓く一手だ。既存の市場形態だけを見て物事をはめ込もうとすると無理が出る。未来は、別の自動車社会が現われると考えるべきだ。