実力拮抗で好バトルが期待できる「Rally1」規定モデル このようにRally1規定モデルは、まさに新時代のラリー車両というべき存在で、各ワークスチームは規定変更に合わせて主力モデルをスイッチ。トヨタGAZOOレーシングWRTは「トヨタGRヤリスRally1」、ヒュンダイWRTは「ヒュンダイ i20 N Rally1」、Mスポーツ・フォード WRTは「フォード・プーマ・ハイブリッドRally1」とそれぞれ最新モデルを投入しているが、果たしRally1規定モデルとはどのようなマシンなのか?
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「まず、昨年までのWRカーと比べるともっとも違うのが、センターデフがなくなったことです。これと同時にリヤにバッテリーを積んでいるので、乗り味は随分と異なります。全体的にアンダーステアになっているんですけど、コーナーの出口ではスナップオーバーでスピンがしやすい。ちょっとピーキーな部分があるので最初は戸惑いましたね」。
そうインプレッションするのは、「トヨタGAZOOレーシングWRTネクストジェネレーション」でGRヤリス Rally1のステアリングを握る日本人ドライバーの勝田貴元選手だ。
WRCでRヤリスRally1のステアリングを握る勝田貴元選手 画像はこちら
さらに勝田選手によれば「空力パーツが制限されたことで、高速域での安定感もWRカーとRally1では違います。WRカーではナチュラルな挙動だったけれど、Rally1では不安定な感覚があるので、そのあたりをドライビングやセッティングで合わせ込んでいく必要がありますね」と語る。
残念ながら勝田選手はハイブリッドのトラブルでEVブーストが使用できず、デイ1で総合9番手に出遅れたほか、デイ3では総合5番手まで浮上しながらもSS13でコースアウトを喫し、13番手まで後退した。それでもデイ4では2回のサードベストを記録し、総合8位でポイントを獲得したことは称賛に値する。
勝田選手のGRヤリスRally1の走行シーン 画像はこちら
さらに、トヨタGAZOOレーシングWRTでスポット参戦を果たしたセバスチャン・オジエ選手が2位に入賞。デイ4でパンクを喫したことで優勝こそ逃したが、デイ2からラリーをリードしていたことで、GRヤリスRally1のパフォーマンスの高さが窺えることだろう。
セバスチャン・オジエ選手のGRヤリスRally1の走行シーン 画像はこちら
事実、トヨタGAZOOレーシングWRTのチーム代表、ヤリ-マティ・ラトバラは「優勝はできなかったけれど、重要な一戦となるモンテカルロでマシンの信頼性を確認できましたし、ドライバーも自信を持つことができたので結果には満足しています」と語る。
トヨタGAZOOレーシングWRTのチーム代表ヤリ-マティ・ラトバラ氏 画像はこちら
さらに、「テストでのセットアップが不十分だったので、デイ1はMスポーツ・フォードのローブにリードされましたが、デイ2以降はオジエもプッシュしていたし、エルフィン(エバンス)も進化していました。カッレ(ロバンペッラ)はWRカー時代のフィーリングを重視していましたが、最後にはRally1がまったく違うクルマということを理解していました。ハイブリッド車両にいち早く対応したのはローブでしたが、ラリー全体を通してみれば、カッレがもっともうまくRally1に対応できたと思います。タカ(勝田)は小さなミステイクにより、スタッグという大きな代償を払うことになりましたが、それでもSSのタイムを含めて全体的なパフォーマンスは良かったと思います」とトヨタ勢の4名のドライバーを評価した。
エルフィン・エバンズ選手のGRヤリスRally1の走行シーン 画像はこちら
こうして開幕戦でまずまずの手応えを掴んでいるラトバラ代表は、ライバル車両との比較に対して「我々のクルマはスリッピーでグリップレベルの低いナローなステージで速かったと思いますが、Mスポーツ・フォードのクルマはスムースで道幅の広いステージで強かった印象があります。でも、パフォーマンスは僅差。ヒュンダイのマシンはトラブルが多かったですが、強いチームなので改善してくるでしょう」と分析する。
その言葉どおり、開幕戦のモナコを見る限り、キャラクターの違いはあるにせよ、トヨタGRヤリスRally1とフォード・プーマ・ハイブリッドRally1のパフォーマンスはほぼ同レベルで、トラブルが頻発したヒュンダイ i20 N Rally1も信頼性が向上すればトップ争いに絡んでくることだろう。
フォード・プーマ・ハイブリッドRally1の走行シーン 画像はこちら
つまり、Rally1規定モデルは精力争いを塗り替える最大の要素となるが、ラトバラ代表は「GRヤリスRally1は”安全性”と”信頼性”、あと”ハイブリッドの機能”に重点を置いて開発してきましたが、開幕戦のモナコで、その3つの部分について確認できたので、今後は他の部分を煮詰めていきたい。とくに第2戦のスウェーデンはトラクションの確保が重要になってくるのでサスペンションやデフのセッティングを進めたいと思います」と語っているだけに、我々、日本のファンとしては4台のGRヤリスRally1を投入するトヨタ勢の動向に注目したいものだ。