1986年まではWRCもエボリューションモデルが参戦していた
一方、WRCに目を向けると、1987年〜1996年までのグループA時代は、ベース車両のスタイリングを踏襲。1997年に幕を明けたWRカー時代もフェンダーやリヤウイングなど空力デバイス改良は認められたものの、ベース車両のイメージが踏襲されていた。2017年には空力面における開発の自由度は広くなったほか、2022年はラリー1時代を迎え、チューブラーフレームとハイブリッドシステムを採用した専用モデルとなったが、それでも、マシンのシルエットはベース車両をイメージしたスタイリングと言えるだろう。
つまり、WRCと言えども、レギュレーションの関係から、1987年以降はプロトタイプカーのような独創的なマシンは参戦していないが、それよりも以前に遡れば、WRCにも個性的なマシンが参戦していた。
なかでも、1982年〜1986年のグループB時代は生産台数20台のエボリューションモデルを自動車メーカーのワークスマシンとして認めたことから、プロトタイプ車両のようなラリーマシンが続々と登場した。そのなかで、もっとも印象的なマシンといえば、やはり、オースチン・ローバーが1985年に投入した「MGメトロ6R4」がクローズアップされることだろう。
コンパクトなシャーシに2900ccのV6ターボエンジンを搭載した同マシンはエクステリアも個性的で、ウイングのようなフロントバンパーと左右に迫り出したフェンダー、そして巨大なリヤウイングがポイントとなっていた。残念ながらMGメトロ6R4はトラブルが続出し、目立った成績を残せずに終わったが、多くのファンに愛される一台となったに違いない。
そのほか、1985年にデビューした「ランチア・デルタS4」もグループB時代を代表するレジェンド車両。ターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせた550馬力のエンジンと4WDシステムで話題を集めたが、カナード形状のフロントバンパーとシンプルかつ大胆なリアフォルムが印象的で、ミニカーをコレクションしていた…というラリーファンも少なくないことだろう。
もちろん、1983年〜1984年にかけて2連覇を果たした「アウディ・クワトロ」もグループBを語る時に欠かせないマシンと言える。なかでも、張り出したフロントバンパーと左右のフェンダー、そして、巨大なリヤウイングを持つ「クワトロS1 E2」のシルエットは、まさにGTカーを彷彿とさせるスタイリングで、ランチア・デルタS4と人気を二分する一台となっている。