なぜいま「4WS」が再脚光? 1980年代に国産メーカーが一度「挫折」した技術が復活したワケ (2/2ページ)

ランボルギーニやAMGにベントレーも搭載する

 だが近年、その欧州車を中心に4WSが再び見直され、大きなムーブメントとなって自動車メーカーの正規採用が拡大している。まず口火を切ったのはメルセデス・AMG GT S/Cだ。2015年に登場した同モデルはフロントミドシップエンジン搭載/リアトランスアクスルの後輪2輪駆動だったが、その後輪には操舵装置が装着されていた。

 AMGが採用したのはサプライヤーから供給される後輪操舵装置で、左右のリヤサスペンションアームにそれぞれ一個ずつアクチュエーターモーターを装着しタイロッドを稼働させることで左右後輪を個別に制御していた。個別制御を行うことで後輪内輪と外輪で異なる操舵角を設定でき、内輪差やアッカーマンアングルを取り入れて実用性を高めることができた。その結果、それまで不可能とされていた逆相での制御も可能となり旋回半径を小さくでき、低速での小回り特性を大幅に改善することも可能となった。逆相操舵でタイトターンも行いやすくなり全車速域で運動性能を大幅に高めることができたのだ。

 この技術のブレークスルーはしっかりしたシャシー設計に加え、操舵角速度、ヨーレートやG、車輪速などのセンサーと演算能力が大幅に高められたことが上げられる。そしてこの技術は今ではランボルギーニやベントレー、メルセデス・ベンツなどにも広く採用されるようになり、その走行特性を圧倒的に高めているのだ。

 ルノーは2017年に4コントロールをFFのメガーヌに初採用し、FFスポーツの走りを一変させた。FF車はタイトコーナーのパワーオンでプッシュアンダーを引き起こすのが当たり前の特性であったが、ルノーは後輪を逆相に操舵することでアンダーステアを軽減しFFの旋回性能を大幅に高めることに成功したのだ。また暖まりにくい冬場のFFの後輪を同相に操舵することで安定性も高めることができる。

 ルノーの後輪操舵システムは後輪左右のセンターに一つのアクチュエーターモーターを装着して左右後輪を同時に操舵するのだが、タイロッドアームに独特な形状を与えることでアッカーマン特性、内輪差特性をクリアしている。1モーターはコストや重量の軽減効果も高く4WS普及の大きな技術的ブレークスルーとなると言えるだろう。

 今後の高性能車は4WSなしでは語れない。そんな時代に入っているのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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