女性が好きなちょめちょめバックとは!?
「ああ、そうか。カタチとしては同じグループだけど、ハッチがあるのとないのが存在してるから、ちょっとわかりにくいかも知れないですね。ファストバックはリヤウインドウが比較的寝ていて、リヤに明確なノッチを持ってないクルマ、つまりルーフラインがなだらかにリヤエンドに向けて傾斜していくスタイリングを持つクルマを指すんですよ。2ドアのクーペにはこのカタチが多いし、4ドアのクーペもそうですね。そこにハッチがあるかは関係なくて、分類するなら同じファストバックなんです。
GR86とスバルBRZ、それにアストンマーティンのDB11とかはハッチを持たないファストバック、プジョー508とか今のホンダ・シビックとかマツダ3とかはファストバックでありハッチバックでもある、という感じですね。まぁマツダ3にはノッチバックのセダンもありますけど。ファスト(fast)には“速く”とか“高速の”みたいな意味があるんで、そういうイメージから名づけられたカタチなんでしょうね」
「ちなみにファストバックからの派生みたいなものとして、カムバックっていうのもあるんですよ。これはファストバックのルーフラインがリヤエンドに向かって流れていく途中をスパッと垂直に切り落としたデザインのこと。ヴニバルト・カムっていうドイツの空気力学の専門家が実証した独自の空力理論に沿ったカタチなんですけどね。カムバックっていうのはアメリカ的ないい方で、イギリスではカムテールっていわれることが多いんですけどね。イタリアでのコーダトロンカっていう呼び方の方がポピュラーかな? アルファロメオのTZは有名ですね。日本だとホンダCR-XやCR-Zも、カムバックを採り入れたクルマですね」
「なるほど。ためになるなぁ。でも、ファストバックみたいなクルマなのにスポーツバックっていわれてるクルマもあるじゃないですか。あれはどうなんですか?」
「アウディですね。スポーツバックっていうのは、アウディ独自の呼び方なんですよ。A5スポーツバックとかA7スポーツバックとか、4ドアのファストバックでリヤにハッチのあるモデルをそう名づけてるんです。若々しくスポーティなイメージを持たせようとしたんでしょうね」
「アウトバックっていうのは?」
「ステーションワゴンをベースにしたクロスオーバーSUVにつけられる、スバル独自のネーミングです。アウトバック(outback)っていうのは、もとはオーストラリア内陸部の砂漠を中心としたエリアのことで、それが転じて“奥地”だとか“未開の地”みたいな意味を持つようになった言葉です。そういうところも難なく走れるタフなステーションワゴン、っていうことですね。これもクルマのイメージを伝えるため、でしょう」
「クロスオーバーっていう言葉に似た、クロスバックっていうのもありますよね?」
「ありますね。DS3とDS7は、正式にはDS3クロスバック、DS7クロスバック、ですから。これもアウディのスポーツバックと同じで、クロスオーバーSUVであることを示す独自のネーミングです。ある意味、どういうクルマかわかりやすいじゃないですか。まぁ女性の服とか水着に背中にストラップだとかバンドだとかが交差してるデザインのものがあって、それもクロスバックって呼ぶみたいですけど、そっちとはたぶん関係ないと思います」
「いろいろあるんですねぇ。……それじゃ最後の質問です。女性が好きなXXバック(彼は何と“ちょめちょめバック”といった! いつの時代だ……?)っていうのがあると思うんですが、そのちょめちょめとは何でしょう?」
「……えっ?」
「あるでしょう、女性が好きなちょめちょめバック。それは何でしょう?」
……コノヤロー。一瞬ちょっと怯んだじゃないか。まぁ望んでる答えがわからないわけじゃない。でも隣に女性スタッフがいるわけだから、それは限りなくハラスメントだろ……っていうが“女性が”じゃなくて“あんた”が好きなんだろ? ……と心の中に罵った瞬間、別の答えがポン! と浮かんで来た。
「ああ、キャッシュバックですね。……でしょう?」
女性スタッフはニッコリしながらうなづき、オヤジはクチを開けてポカーンとした。僕の勝ち、である。
「あはっ……あははっ。ですねー」
この男、“意外やいい上司”なんかじゃなくて、やっぱり全力でスチャラカだったのか……。しかも、1グラムもおもしろくないし……。僕は目の前の女性スタッフさんの日々の苦労を想像しつつ、お話の中のひとつでもふたつでも知識として頭に残ってたらいいなぁ……と思ったのだった。