A110のOEMタイヤは横方向のグリップを落としている
注意すべきは、近頃はひたすら高性能にこだわるばかりがOEMタイヤの方向性でもない。たとえばアルピーヌA110のノーマルシャシーのモデルは、専用のミシュラン・パイロットスポーツ4を採用しているが、むしろ市販リプレイスタイヤより横方向のグリップを少し落として、ミッドシップ・スポーツでありながらコントローラブルな滑り出し、扱いやすい操縦性を目指したという。タイムを出したいわけじゃないのだから、という話だ。
逆にいえばリプレイスタイヤのほうが明らかに高性能になりうることもある。本格クロスカントリーSUVのケースだ。というのも近頃のSUVの新車は、WLTCモードの燃費やCO2排出量で少しでもよいスコアを稼ぐために、なるべく転がり抵抗の少ないオンロード寄りのトレッドパターンのタイヤを標準装着している。サイドウォールにまでトレッドパターンの回り込んだような本格オフロードタイヤは、高速燃費では圧倒的に空力面で不利だし、そもそも日本の車検では通らない。
が、オーストラリアのような本格クロスカントリー需要のある国への輸出仕様では、むしろ標準装備されていないとディーラーやユーザーの前で説得力を欠いてしまう。ちなみに岩場などでアプローチアングル以上に高い段差を乗り越える際は、片側前輪のサイドウォールを岩に押し当て、側面グリップで駆動をかけて登ることがある。極端なケースとはいえ、そういった局面では、燃費重視のサイドウォールがつるんとしたタイヤでは踏み越えられない。
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結局のところ、タイヤもランニングシューズや登山靴と似たところがあって、走る状況や条件、狙う性能とレベルによって、何をもって事足りるとするか? そこに尽きる。リプレイスタイヤもサイズ要件や積載荷重を満たしている以上、通常の走り方なら支障はないはずだが、OEMタイヤには作り手があえて最適化したバランスが備わっているからこそ、履く価値がある。だが求める走りの質やバランスが乗る本人のみが知るところであれば、あえてOEMタイヤという選択肢の外へ、「汎用品」の中に踏み込んでみること、それも必要なのだ。