現行が「売れなかったところ」を認めて再出発! 工場まで作り替えちゃった新型ステップワゴンの秘密を直撃インタビュー (2/2ページ)

ホンダを支える大黒柱だからこそ工場の改修に踏み切った!

──「スパーダ」には「プレミアムライン」というモデルも設定されるとのことですが、これは外見も大きく異なるのでしょうか?

蟻坂 そこは乞うご期待ということで(笑)。……正直そこまでは変えていません。考え方は一貫しております。

──こういうクルマのユーザーニーズはハッキリしていて、すごくオラオラな雰囲気にしたい人が多いと感じています。ホンダさんはそれを避けてきたからこそ苦しかった面もあったと思うのですが……。

蟻坂 今までは正直言ってそうです。ただし今回も、その考え方は変わっていません。やはりそこは避けます。そちらには行きません。というのは、無限さんがありますので、そういうニーズを取り込むのはそちらに頑張っていただこうと。そして、そういう要素を求める方は、エアロパーツにお金を出してくれる方なんですよ。自分でカスタマイズしたいからなんですね。他人とは違うものにしたいはずなんですよ。私はその気持ちが凄くわかるので、私ならベース車を買ってカスタマイズしますね(笑)。

──今までステップワゴンは狭山(埼玉製作所狭山完成車工場)で作られていましたが、狭山での生産は終了するので……。

蟻坂 寄居(埼玉製作所寄居完成車工場)に移ります。

──それに伴い、高さの制約は生じなかったのでしょうか?

蟻坂 凄いことを訊きますね(笑)。正直言うと……ありましたよ。ですので工場を一部作り替えています。

──そこまでしたんですか!?

蟻坂 だって、入らないから(笑)。しかもテールゲートが長いので、組み立てる時にはテールゲートが開いた状態になりますから、リヤのハンガー間距離がギリギリでした。それも作り替えています。もう大変でした、工場問題(笑)。

──このクルマのために、そこまでしたんですね。

蟻坂 はい。このクルマがこれからの国内のホンダを支えますから。

──3代目で全高を下げた際に、居住性や販売の面で厳しい所があったと思いますが……。

蟻坂 私、あの時のことを覚えていますよ、「ステップワゴンをぶっ壊せ」と。「何を言ってるんだこの人は」と(笑)。あれは悪いクルマではなかったんですけどね、「もう完全にスポーティに振るんだ」と。

──正直、同じことをするのかという心配はありました。

蟻坂 歴代モデルのPDCAの中で、3代目と5代目、全高を下げたことと「わくわくゲート」、一体何が問題だったのか、市場の反応を検証しました。3代目は、低くした瞬間に、車体が小さく見えてしまい、それで叩かれてしまったんですね。オデッセイの時も少しは言われましたが、低くするからにはかなりの覚悟と理由が必要になります。

──いくらフロアを下げて、数値上は同じ室内高を確保しても、絶対的な全高が低ければ、感覚的には閉塞感を覚えてしまうと私は考えています。

蟻坂 クルマが小さく見えるんですよ、もう。

──外見だけではなく、室内に座ってもそれは感じますよね。

 蟻坂 はい。ですので新型は、室内も高く広く見えるようになっています。その辺はインテリアのデザインもかなり気を遣っています。

──2・3列目のヒップポイントを上げて、1・2列目シートのヘッドレストも高さを抑えていますよね。

蟻坂 はい。至る所で、どうしたら室内が広く見えるか、2・3列目の人がどうしたら快適になるかを考えています。3列目のヒップポイントが低いと、どうしても穴蔵のようになってしまうんですね。それを解消するためにエレベーションを付けて、3列目を高くしました。ですので見晴らしがかなり良くなっているはずですよ。

──それで逆に、3列目シートを厚くすることができ、かつ格納部にも収まるように……。

蟻坂 それを両立できるようにしています。ヘッドレストは、高さを下げているんですが、それだけではなく、シートを前後に大きくしています。そうすると、横から見た時に、シートが厚く見えるんですね。その方が高級感が出ますので。どれも厚く柔らかく見えるようにしていますね。

 他には、内外装とも、変な角を作らないようにしています。

──視覚的なノイズはかなり減りましたね。とくに、インパネ天面に分割線がないのは驚きました。

蟻坂 あれ、作るのは大変なんですよ。

──エアバッグの要件がありますよね。

蟻坂 そうですね。そうすると、その部分が引けてしまったり、いろいろあるんですよ(笑)。

──現行モデルの「わくわくゲート」に対するユーザーの評価はどうだったのでしょうか?

蟻坂 「わくわくゲート」は、購入ユーザーからは非常に好評でした。ですがデザイン面では、あれが購入選択肢から排除される最大の理由になることが非常に多かったんですね。それで営業スタッフが苦しんだということを結構聞きまして。縦線が入るデザインに対する意識調査もしたのですが、圧倒的にダメでした。

──縦の分割線が中央に引かれていれば良かったのではと、私は考えましたが……。

蟻坂 実はそれも、いろいろ考えたんですよ。デザインでもいろいろ描いていて「このデザインだったら受け入れられるか」という調査もしているんですが、それでもダメでしたね。

──「わくわくゲート」は、使い勝手の面では、狭い場所でも開けるという点でかなり……後方スペースが狭い駐車場環境のユーザーはとくに、大きなメリットがあったと思います。

蟻坂 痛し痒しでしたね。そこで今回は、パワーテールゲートを設定しました。これは開閉途中で止められますので、「わくわくゲート」の代替として使えるかなと。それに「わくわくゲート」は途轍もなく重かったので……。

──その有無だけで車重が10kg変わりますよね。

蟻坂 ゲート以外も入れればもっと変わります。ですから、いざ開けようとすると重くてしょうがないんですよ。しかも縦に長くて重い。

──しかも「わくわくゲート」には、パワーテールゲートを適用できませんよね。

蟻坂 付けられませんでした。今回は短く軽くしているので、パワーテールゲートなしでも大丈夫だと判断して、「エアー」には装着していません。それに、こういうクルマの場合、買い物程度なら荷物はリヤスライドドアから入れるでしょうと。横にクルマがあっても開けられますから。今回スライドドアには静電タッチ式の開閉機構を設定していますし。私は初代フリードに乗っていますが、自分自身、私の妻も、遠出の際などで大物を入れる時以外はテールゲートを開けないんですよ。買い物の時は、スライドドアから後部座席へ荷物を入れているんですね。

──走りに関しては現行モデルが、モデューロXやハイブリッド車が追加されたことで、大きな訴求点になっていたと思いますが……。

蟻坂 乞うご期待です。自信作ですから。

──プラットフォームは今回変更されているんですか?

蟻坂 基本は変わっていません。ただし、いろいろ変更しています。乗ったら驚くと思いますよ。

──価格はどうでしょうか? この内容ですと、相当上がりそうな予感がしますが……。

蟻坂 お値段も頑張っています。競争が激しいジャンルですので、むやみに高い値段は付けられません。一番大事なのは、多くのお客様に乗っていただくことですから。

──恐らく他の競合モデルも年内に一斉に世代交代すると思われますが、新型ステップワゴンの仕上がりに期待しています。ありがとうございました!


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
好きな有名人
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