乗馬との共通点も運転してみたい理由のひとつ
世界初のガソリンエンジン自動車を発明するに際し、ベンツは、「機動性と実用性に優れ、エンジンが車体と有機的に一体化した自走車」という概念を持っていた。つまり、単に馬に替わって走らせる動力(エンジン)を持った車両というだけでなく、機動性、つまり旋回性能を含めた走行性能の高さを考慮していたと考えられる。旋回時に内輪と外輪の軌道半径の違いによる不都合を起こしたくなかったのだろう。それに対し、ゴットリープ・ダイムラーは、馬車の客室の床に穴をあけ、エンジンを載せる手法で、まさしく馬なし馬車を作った。動力を馬からエンジンへ、それがダイムラーの着想だった。
のちにアッカーマン・ジオメトリーの考えを手に入れたベンツは、次の車両で4輪にしている。
パテント・モトールヴァーゲンの速度は、時速15kmほどだ。これは、馬が速歩(はやあし)と呼ばれる足の運びで駈けるときの速さに等しい。ベンツが構想のなかに、「有機的」といっていることから、私は、生き物である馬のような自在な走りを目指したのではないかと解釈している。
また、馬の速歩における足の運びは2拍子で、まさにパテント・モトールヴァーゲンの単気筒エンジンが発したシュッ・ポン、シュッ・ポンの調子と同じなのだ。
私は、20年近く乗馬をしてきて、その感覚は2輪車(バイクや自転車)ではなく4輪車に近いと考えている。旋回の際に、馬は馬体を傾けないし、騎乗する人も体を垂直に保つのが基本だ。そして馬は、右旋回と左旋回で足の運びを替える(この点は、4つ足動物は同じ)。その様子は操舵感覚だ。乗馬との類似点からも、世界で最初のガソリンエンジン自動車であるパテント・モトールヴァーゲンを、一度は自ら運転してみたいと思うのである。