庶民の利便性よりも「上級国民」の意向が優先
バーンスー中央駅からは、郊外へ向けた“SRT(タイ国鉄)レッドライン(東京でいえば、上野東京ラインなど中距離通勤電車といったところ?)”が開通しており、バンコク市中心部から地下鉄でバーンスー中央駅まできて、レッドラインに乗り換えると、それまでタクシーやバスしか交通手段のなかった、ドンムアン空港(バンコク首都圏のもうひとつの主要空港、ここならモーターショー会場に比較的近い)へ鉄道で行くことができ、交通渋滞に悩むことなく移動することが可能となった。ちなみにレッドラインの建設には日本が官民で深くかかわっており、車両も日本企業製のものとなっている。
まだまだ鉄道網全体としては不便なところもあるようだが、着実に充実してきており、いつの日か、渋滞の全面解消はなくとも、緩和に大きく貢献することになりそうだ。
コロナ禍直前にバンコクを訪れた時に、前出の現地在住の知人が興味深い話をしてくれた。「バーンスー中央駅の近くには、もともと“モーチット・マイ・バスターミナル(北バスターミナル)”があるのですが、中央駅とバスターミナルの距離が、歩いて移動するには微妙に離れているのです。中央駅があるのは再開発地域なので、よりバスターミナルに近い土地がなかったというわけでもないようです。日本ならば、中央駅とバスターミナルを直結させて利便性を高めるところなのですが、そのような発想がここ(タイ)にはないのです」とのこと。
ほかにも、大規模ショッピングモールを建設したのはいいが、最寄り駅から歩くのには微妙に離れているといったケースもあるとのこと。「都市設計をするような上級官僚は、日本でいうところの“上級国民”出身者が多いようです。このひとたちは当然裕福であり、幼いころから移動手段は運転手付きなどのクルマのみとなります。そのため、“駅とショッピングモールが直結していれば便利”とか、“鉄道駅とバスターミナルが直結していれば乗り換えに便利”という発想がもともとないことが大きく影響しているようなのです」とのこと。
確かに市内中心部でも、かつて日系デパートもあったショッピングエリアが高架鉄道の駅と駅の間にあるのが、いつも不思議に思えていた。知人にいわせれば、微妙に距離が離れていることで、たとえば駅とショッピングモールを結ぶ“モーターサイ(バイクタクシー)”が営業開始するなど、新たなビジネス創設に一役買っていると前向きに見ることもできるとも語ってくれた。
東南アジアの“格差社会”のレベルは日本の比ではないと言われているが、その“ひずみ”といっていいものが都市開発に及んでいるのならば、実に興味深い話である。