時代を先取りしすぎていた「やりすぎ」なクルマたち
そうした流れでいえば、1992年に三菱が生み出した世界最小V6エンジン「6A10」型もやりすぎなテクノロジーといえるでしょう。ミラージュとランサーに搭載された、総排気量1597ccのV6エンジンは、排気量が小さいだけでなくDOHCヘッドを持つV6 24バルブエンジンでした。最高出力は140馬力、すでにリッター当たり100馬力を達成するエンジンもあった時代でしたから、パワーというよりは滑らかさをセールスポイントとしたパワーユニットとして生まれたのです。
その後、ミラージュのV6エンジンが1.8リッターの6A11型に進化したことを考えると、1.6リッターという排気量は高級感を生み出すには小さすぎたのかもしれません。とはいえ、世界最小V6エンジンという響きが、日本の盆栽・箱庭文化的な世界観を感じさせたのは事実です。小さくすることにトコトンこだわった「やりすぎ」なエンジンだったのです。
この時代の三菱は本当に元気で、未来を見つめすぎた「やりすぎ」なテクノロジーが続々と出てきていました。6A10型エンジンと同じ1992年にフルモデルチェンジしたフラッグシップモデル「デボネア」の最上級グレードに搭載されていた「アクティブプレビューECS II」はそんな先進性を象徴するテクノロジーの代表です。
これは、フロントバンパーに設置されたソナー(超音波センサー)により路面の凹凸を読み取り、それによってエアサスペンションやダンパー減衰力を自動調整するというもので、まさしく90年代のハイテク王国だった三菱らしい「やりすぎ」た機能でした。
ちなみに、この代のデボネアには国産乗用車として初の車間距離維持システムも用意されていました。もし、キムタクが三菱のブランドアンバサダーだったら「やりすぎミツビシ」とコメントしたことでしょう。もっとも1990年代というとキムタクはトヨタRAV4のCMキャラクターを務めていた時代なので、三菱のクルマに言及するなんてことはあり得ないわけですが……。それにしても芸能界の第一戦で長く活躍されているのだなあと感じます。
それはさておき、おなじく1992年にはホンダから「やりすぎ」なオープン2シーターが登場します。それが2月にフルモデルチェンジしたホンダCR-Xデルソルです。
それまでシビックのスポーツ度を高めた硬派なモデルという位置づけだったCR-Xは、マツダ・ロードスターに端を発するライトウェイト・オープン2シーターへとキャラクターを180度チェンジします。そのコンセプトは「太陽のスポーツ」、具体的にはオープンエアクルージングの楽しさに快適性をプラスするというソリューションを提案します。そのオープンクーペ・スタイルは当時としては新しいアイディアでした。
そのために生まれた「やりすぎ」なメカニズムこそ、電動ルーフ開閉システム『トランストップ』です。ドライバーはルーフを固定している二か所のロックをはずし、あとはスイッチを操作するだけで、トランクリッドが真上に上昇、ルーフを自動的にトランクリッド部分に収納して、ふたたび下降してオープン状態にするという一連の動作は、いま思い返してもインパクト抜群。よくよく考えると、そこまでしなくとも電動オープンにできたのでは? とも思いますが、素直に「すげぇ」と驚くような商品企画があり得たのはバブル期に開発が進んだクルマならではともいえます。
筆者は、日産アリアについては見たことがある程度なので、その走りは想像するしかないのですが、本当に日産アリアが「やりすぎ」に感じるほどの走りを手に入れているのだとすれば、国産車がバブル期ばりに元気を取り戻しつつあるといえるのかもしれません。