「EVだ」「エンジンだ」の議論は木を見て森を見ず! 「本当に大切」なものとは? (2/2ページ)

昔はどんなエネルギーを使っていたのか?

 ところで、イエス・キリストが生まれた西暦1年よりずっと前の紀元前時代は「火」を使っていました。これは木の枝などを燃やすことで熱エネルギーであったわけです。その後、水車や風車を発明し、自然のエネルギーを利用して、大きな動力を得ることに成功しました。高いところから流れる水は、現代物理では位置エネルギーとして知られています。つまり重力を上手に利用した一例ですね。風車は風の力なので、温度差で生じる風という自然エネルギーを利用したわけです。

 さらに時代が進むと、馬や牛など動物を使うエネルギーもありました。いずれにしても、1769年ごろに考案された英国ジェームズ・ワットの蒸気機関で世界は大きく変わりました。それまでの人類の生活はノンビリとしたものでしたが、蒸気機関の発明で大きな動力を得ることに成功し、英国中心に産業革命がおきたのです。このとき、蒸気機関の仕事が馬の仕事と比べることで、その優位性を証明しました。このとき馬一頭分の仕事(1馬力)が約736ワットと規定されたのです。この数字の意味は「75kgの物を1秒で1m動かす力」と定義され、仕事の効率を示しています。つまり、75Kgの物を1m動かす力(仕事=エネルギー)の効率なのです。ですから、クルマのカタログに書かれている馬力(PS)は、仕事の効率です。ちなみにトルクは時間の概念を含まないので「力」そのものを示します。

 こうして蒸気機関の実現で近代化は進みましたが、蒸気は薪や石炭で水を沸騰させて得られる圧力の力です。お鍋が沸騰すると蓋が浮き上がるのは、空気が温められ、圧力が増したからです。この原理を利用した蒸気機関自動車はフランスですぐに実用化され、キュニョーという人が考案した大型の搬送車が登場しました。それよりも前に風を利用した帆のクルマもありましたが、自律的に移動できるクルマとしては、このキュニョー蒸気機関が世界で初めてのクルマといえるでしょう。

ガソリン自動車よりも前にBEVが登場していた

 歴史を紐解くと、世界で初めて作られたバッテリーとモーターで走るクルマ(BEV)はガソリン自動車よりも前に登場していました。世界初のBEVは1873年の英国でしたが、ガソリン自動車は1886年のゴットリープ・ライムラーとカール・ベンツですから、BEVの方が古い自動車なのです。当時のバッテリーは1859年にフランスで考案された鉛蓄電池でした。いまでも12Vのバッテリーはこの鉛バッテリーです。

 しかし、1907年頃に登場した量産型のガソリン自動車として知られるT型フォードによって、一気にガソリン自動車がアメリカを中心に普及します。鉛バッテリーのEVよりも航続距離が長く、同時に普及したガソリンスタンドと高速道路網によって、ガソリン自動車の時代が訪れたのです。現在は地球上に約10億台の自動車が走っていますが、その多くが石油エネルギーを消費しているわけです。

 電気にすれば問題が解決すると思っている人もいますが、電気(水素もですが)というエネルギーは二次エネルギーと呼ばれ、その元になるエネルギー(一次エネルギー)から作られるわけです。石炭や石油を使う火力発電で作られた電気は、決してCO2がゼロというわけではないのですね。二次エネルギーを使うときは、その大もとのエネルギーを考える必要があるわけです。

 あまりにも石油に依存した近代社会から、脱石油することは難しいことですが、やがて訪れる石油の枯渇や温暖化を考えると、人類共通の最重要課題として、みんなでこのエネルギー問題を受け止めるべきだと思うのです。


新着情報