ロールケージを組んだ仕様を用意しなければならない
では、S2000をサーキットベストに仕上げるときに課題となるのは何だろうか。硬いサスペンションについては、ユーザーが許容してくれただろうが、多くのサーキットでは、ルールとしてオープンのままで走れないというのは課題だ。今でこそミニサーキットなどであれば幌を閉じおけばオープンカーも走行可能というところもあるが、当時はオープンカーのサーキット走行にはロールケージが必須だった。
サーキットベストという大前提でS2000タイプRを出すのであればロールケージは必須アイテムとなる。マツダ・ロードスターにはNR-Aというロールケージをアクセサリーとして用意したグレードもあるが、それはワンメイクレースという前提があってこそ。S2000にそこまで思い切った仕様を出すという判断は難しい。
ロールケージがなければ、そのままではサーキットを走れないタイプRという矛盾した存在が生まれてしまう。それもS2000にタイプRが企画されなかった理由としては無視できない。
とはいえ、S2000はストリートだけを考えて設計されたクルマだったわけではない。サーキットベストというタイプR的スピリットは、ノーマル状態でも感じられた。
オーナーであればご存じのように、年式によってはドライとウエットで明らかにハンドリング特性が変わるほど、尖った特性となっていた。具体的にいうとドライ路面ではビタっと張り付くようなコーナリングが味わえる一方で、激しい雨になると高速道路を法定速度で走ることさえ憚られるようなリスキーなキャラクターに変身した。
9000rpmまで回る2リッターエンジンのパフォーマンスを引き出すには、日本のストリートはあまりにも速度域が低かった。結局のところ、S2000の走りを楽しもうと思えば、サーキットに足を運ぶしかなかったのだ。
冒頭で書いたように、やはりS2000はタイプR的なコンセプトで生み出された。だからこそ、あえてタイプRを追加する必要はなかったのだろう。