自動運転に向けたメカニズムといえる
ダイレクトアダプティブステアリングのメリットを実感できるのは、スカイラインハイブリッドに標準装着される運転支援機能のプロパイロット2.0を作動させている時だ。ステアリングホイールと前輪が直接繋がっていないため、前輪が細かな進路調節を行っても、ステアリングホイールにその動きを反映させない。プロパイロット2.0では、運転支援機能の作動中にステアリングホイールから手を離せるが、この時にステアリングホイールが小刻みに左右に動くと気になってしまう。そこをステア・バイ・ワイヤで違和感なく仕上げた。
ただし現時点では、その程度の効果しかない。通常のパワーステアリングでも、上級車種にはステアリングのギヤ比がバリアブルに変わるタイプも多い。車庫入れなどのために低速域で操舵角が大きくなった時は、ギヤ比が次第にクイックになって操舵量を小さく抑える。
この時にはステアリングホイールを右端から左端まで回した時のロック・トゥ・ロックが約2回転の車種もあり、峠道などを走っても持ち替える機会は少ない。9時15分の位置で保持していれば良い。従って操縦桿のような形状のステアリングホイールを装着しても、目新しさ以外の実質的なメリットは乏しい。
ステア・バイ・ワイヤの本当の価値は、もっと別の機能にある。たとえばこれから安全装備が大幅に進化すると、ドライバーよりも車両制御のほうが危険回避を的確に行える。この時にはステア・バイ・ワイヤが効果的だ。ドライバーがパニックに陥ってステアリングホイールにしがみついた時でも、前輪は車両側の制御によって的確に操舵され、危険を避けられる。このような制御は、ステアリングホイールと前輪を分離したステア・バイ・ワイヤでないと難しい。
さらにその先には自動運転があり、ワンモーショングリップのメカニズムも、そこに向けた技術ステップのひとつに位置付けられる。つまりユーザーにとって、現時点での実用的なメリットは乏しくても、商品化には意味があるのだ。