この記事をまとめると
■フェラーリ「Icona」シリーズの最新作「デイトナSP3」が発表された
■「Icona」シリーズはフェラーリの名車をモチーフに現代的に再解釈したスペチアーレだ
■デイトナSP3は限定599台の発売で発表時にはすでに完売だった
レーシングカーが美しかった時代の息吹を感じるスタイリング
フェラーリが11月20日に発表した「デイトナSP3」には、ちょっとばかり衝撃的なくらい美しいモデルだな、と感じさせられた。いや、クルマのスタイリングデザインというのは──というかデザインというもののすべてがそうなのだけど──誰もが優劣ではなく好き嫌いが先に立って語りがちなモノ。デイトナSP3が美しいというのは、もちろん僕の個人的な感想だ。けれど、この姿が同じようにストンと心に刺さっちゃう人、少なくないと思うのだ。
僕がデイトナSP3のスタイリングに惹かれたのは、そこにレーシングカーがもっとも優美な姿態を見せていた時代の息吹を感じさせるところだ。シルエットを見てもディテールを見ても、1960年代の半ばから後半のスポーツプロトタイプのレースを戦った、”P”シリーズを中心としたマシンたちの姿と名前がいくつも頭のなかに浮かんでくる。
なかでももっとも色濃いのは、“デイトナ”という名前が示すとおり、1967年のデイトナ24時間レースで1-2-3フィニッシュを飾った330P3/4、330P4、412Pだろう。映画『フォード VS フェラーリ』を御覧になった方はご存じだろうが、1966年のル・マン24時間レースで、フェラーリはフォードに敗れ、連勝を阻まれた。映画からすれば、その後日譚だ。年が明けてフォードの地元といえるデイトナ戦で、フェラーリはレースを支配したばかりか、3台をほぼ横並びにしてフィニッシュさせ、勝利を高らかにアピールしたのだ。そのときの写真はアメリカの通信社から世界中にリリースされ、フェラーリのリベンジが各国で報じられた。
その伝説が、カタチになって蘇った。しかも、だ。当時のマシンたちの線や面をコピーしているところは皆無。インスピレーションのルーツがどこにあるか隠してはいないが、線や面は現代的に解釈しなおされるなど、ゼロからまったく新しくデザインされている。それも空気のチカラを最大限利用する最新のエアロダイナミクステクノロジーと、きっちりと組み合わせて。
最新の技術が投入されているのは車体だけじゃない。パワーユニットはフロントエンジンのフラッグシップ、812コンペティツィオーネの6.5リッター自然吸気V12、F140HB型をベースにした840馬力/697Nmをミドシップにレイアウトして搭載。もちろんドライブトレインやシャシーまわりを統合制御するサイドスリップコントロールをはじめとしたほぼ最新レベルの電子デバイス類も、余すところなく投入されている。単なる懐古趣味的なスペシャルモデルなんかじゃないのだ。