販売現場とかけ離れた国の認識に喝! 「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」に見える「暗い未来」 (2/2ページ)

社会システムを大きく変えていく必要がある

 それでは日本車だけで見ると、今回の補助対象となりそうな車種をざっと挙げてみると、トヨタだとプリウスPHV、RAV4PHV、MIRAI、日産ではアリア、リーフ。ホンダはホンダe。マツダはマツダMX-30(BEV)。三菱がアウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEV。レクサスがUX300e、NX450h+となりそうだ。国内には乗用車ブランドが9つあるが、それから今回ピックアップしても11車種しかない。

 HEVが対象外となったのは単に予算規模の問題が優先したのかもしれないとみられるほど、日系ブランドではPHEVを含めてもHEVを除くと電動車が少ないことが改めてわかる。今後は日産と三菱から登場予定の軽規格BEVや、先日発表されたトヨタbZ4Xやスバル・ソルテラ(いずれもBEV)が近々では新たにラインアップされる予定だが、国内に導入されている輸入車ではメルセデスベンツ単独でも、ラインアップされるBEVとPHEVが7モデルもあることから見ても、日本市場及び、日系メーカーの電動車への取り組みの遅れは決定的といえるだろう。

 消費者の選択肢が少ないなかで購入補助金を出す前に、各日系メーカーに対し電動車の開発及びラインアップを加速させる政策を打つほうが先にも見えるが、すでにそのような時間的、予算的余裕もないように見える。

 本来ならば、タクシーやバス、宅配業者など事業用、つまりフリートユーザーも積極的に車両電動化を推し進める必要もあるのだが、補助金予算の問題のほか、今使っているガリン車などの代替えとなる事業用のBEVなど電動車について“日の丸モデル(日系ブランド車)”ではまず賄えないので、推し進めるにも手が付けられないのである。

 今回の補助金ではBEVやFCEV向け充電インフラの導入補助事業にも補助金が交付される。ただし個人宅への設置は対象外となっている。アメリカ・カリフォルニア州では数年前に個人宅向けの充電設備設置への補助金交付を行った。日本並みに電動化が遅れているアメリカだが、ガソリン車しか持っていないのに不動産価値が上がるとして、こぞって個人宅に充電設備が設置されたとのこと。

 本来なら今回も個人宅への設置補助もすべきだったように思う。ただ日本は集合住宅が多い。そして充電設備を持たない既存の集合住宅、たとえばマンションの共用部分に設置しようとすると、管理組合の理事会で4分の3以上の賛成が必要となり、これが大きな“壁”となっている。ほぼ全住民の賛成を得るのはまさに至難の業。この壁を越えるためのさまざまなシステムも登場してきているようだが、それでもこの壁を越えるのは容易ではないものと考える。

 政府が「補助金ばらまいて、電動車を買わせて、充電設備たくさん作ればオーケー」と安易に考えているのならば大きな間違い。車両電動化というか、ゼロエミッション車普及をめざすことは、まさに100年に一度の大変革といえる。その変革を成し遂げるには、政府が電力供給インフラの見直し(そもそも化石燃料ありきの発電インフラでは意味がない)、そして前述したようにハードの充実をはかる以外でも、いままでの社会システムを大きく変えていく必要もある。「一般市民と民間企業に丸投げでおわり」という、いままでのお役所仕事では車両電動化はなかなか先に進まないものと考える。政府もしっかり汗をかかないといままで以上に世界から取り残されることになるだろう。

 販売現場で話を聞けば、「充電インフラがまだまだ整っていないことも含め、おすすめできる車種も限られるし、積極的にお客様に購入を勧めることなどできるわけがない」との話を多く聞く。

 輸入車では高級ブランド車で電動モデルのラインアップが多いのだから、富裕層の所有車をまるごと電動化に導くようなピンポイントの普及促進策も同時並行的に展開するのも効果的かもしれない。

「日本の優れた自動車産業があればすぐに追いつく」などと甘く見ているのならば、そう思っている間は、欧州どころかアメリカ、そして新興国より出遅れてしまうということもけっして言い過ぎではないだろう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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