レーサーの平衡感覚と動体視力は一級品! そのワケは?
一方、TGR TEAM ZENT CERUMOで38号車「ZENT CERUMO GR Supra」のステアリングを握る石浦宏明選手にレーシングドライバーに必要な資質を尋ねたところ、次のように興味深い話をしてくれた。
「レーシングドライバーは三半規管が優れているのでは……という企画があって病院でテストをしたんですけど、とくに飛び抜けているわけではありませんでした。でも、トヨタのドライバー育成プログラム、TDPで若い頃から日体大とかで体力測定をやってきたんですけど、ひとつだけ飛び抜けていた数値が平衡感覚。たとえば片足で目を閉じて立っていたり、バランスボールの上で立ったりするテストなんですけど、測定にきたトヨタのドライバーはみんな飛び抜けた数値になっていた。とくに平衡感覚を鍛えているわけではないんですけどね。レーシングカーは大小の違いはあるけど、基本的には常に滑りながら走っているので、走っているうちに自然とバランスをとることが身についていたんでしょうね」。
続けて石浦選手は「あと動体視力も、レーシングドライバーの多くがカートの時から自然と鍛えられていたんでしょうね。測定すると縦方向の数値は平均並みなんですけど、横方向の数値は高い傾向にある。たぶん、パイロットとかは縦方向も使うと思うんですけど、レーシングドライバーは横方向だけ使っているんですよね」と語る。
このようにレーシングドライバーは平衡感覚と横方向の動体視力が発達しており、ある意味、この二つもドライバーに必要な資質といえるが、気になるフィジカルトレーニングについて石浦選手は「やっぱり体幹の強さが必要になってきます。とくにフォーミュラカーだと、すごいGがかかるんですけど、自分の体を支えておかないと正確なドライビングができない。ハンドルにしがみ付いて支えようとすると疲れて乗れないので、体幹を強くするために背筋を鍛えておかないといけない」と語る。
ちなみに石浦選手は「背筋は生まれ持ったものがあるらしく、背筋が弱い人は努力して強くしている人もいるようですが、僕は鍛えなくても最初から背筋が強かった」とのことだ。
以上、中山選手、石浦選手に分析してもらったが、筆者が知る限り、首が太いこともレーシングドライバーの特徴のひとつだ。知人のスタイリストも「レーシングドライバーは首が太いので衣装合わせが大変」と語っていたが、ただでさえ、身体のなかで重たい部位のひとつである頭部に、ヘルメットを被っていることから、それを激しいGのなかで支えるために頸部が発達するのだろう。
このように、レーシングドライバーはアスリートであり、他のスポーツとはまた違う資質が必要となってくる。そのため、フィジカルにおいても独自のトレーニングが求められているのである。