レーシングドライバーが最高に安全なクルマは「スポーツカー」と語るワケ (2/2ページ)

高い運動性で緊急回避能力に優れるスポーツカー

 ではアクティブセーフティはどうなのか。事故は起こるより回避できた方がいいのは当たり前だ。迫る危険をいち早く察知し回避アクションをとった時に、いかにクルマが正確に安定して反応するかが重要だ。そういう意味ではスポーツカーの持つ運動性能の高さが大いに役立つ。

 高速道路で前方での衝突事故をドライバーが察知し、急ブレーキをかける。高性能なブレーキシステムを持っているスポーツカーなら衝突せずに安全に停止できるかもしれない。それでも止まりきれなかった時にはステアリングを切って回避行動をとる。素早く大きく切り込むステアリング操作に車両が破綻せず安定してライントレースできるかが重要になる。

 通常のクルマならタイヤの性能もプアでグリップの立ち上がりが追いつかなかったり、大きなヨーレートを引き起こすとその揺り返しが起こる。この「ヨーダンピング」性能が低ければスピンしてしまったり、最悪横転してしまう可能性もあるため、衝突を避けられても別の危険な状況に陥りかねない。

 最近のスポーツカーはABS、ESPはもちろんのこと、ブレーキベクタリングや4輪操舵なども備え、軽量化や高性能タイヤの装着などとも相成って運動性能が高い。つまり、緊急回避能力に優れているといえるのだ。

 スポーツカーの高い運動性能を選ぶことは、じつは安全性の高さを手にするのと同じだ。以前、世界でもっとも安全なクルマはポルシェ911だと説いたことがある。タイプ964、空冷ポルシェの時代だ。ポルシェ911はリヤエンジンで通常はキャビンの前方にあるバルクヘッド(隔壁)がキャビン後方にもある。ふたり分の前席シートの前後に堅牢な隔壁が配置され、クラッシュしてもキャビンは原型をとどめることができる。

 実際にボクも鈴鹿サーキットの高速130Rコーナーで964型ポルシェ911をコンクリートウォールに激突させてしまったことがある。時速200kmを超える速度での激突で「死」を覚悟したが、エアバックも備えていない時代にもかかわらず、足を骨折しただけで済んだ。エンジンを搭載していない車体前部は原型をとどめないほどに変形していたが、それが衝撃吸収材となってキャビンを守ってくれたのだ。

 普通にドアを開けて脱出することができたのは高い車体剛性のおかげだった。911の車体剛性の強さは安全性が目的ではなくスポーツカーとしての走りを支えることが主目的だった。しかし、コントロール領域(アクティブセイフティレベル)を超えて衝突域(パッシブレベル)に至っても、乗員を守るために好作用した訳だ。

 かつて、メルセデス・ベンツが一番と言われた「安全神話」が、これからは「スポーツカーこそ安全」と認知されなおされるかもしれない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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