十数台の車を乗り継いで行き着いたスズキ・エブリイバン
しかし、子どもが誕生したことで転機が訪れます。しばらくはクラウンの後席にチャイルドシートを装着していましたが、ファミリーカーとしてはやはり最適なクルマとはいえないと感じ始めました。たしかに広大なトランクは周囲から見えないようにオムツを替えることができるスペースとして役立つことは意外な発見でしたけれども。
そこでファミリーカーとして選んだのがフォルクスワーゲン・ザ・ビートル カブリオレです。ファミリーカーといえばミニバンやステーションワゴンに行くべきでしょうが、この頃から自動車コラムニストとして、モータージャーナリストとは異なる視点での原稿を意識していたこともあって、なにか新しいファミリーカースタイルはないかと模索した上での選択でした。
オープンにすれば後席に子どもを抱きかかえたまま乗せることができますし、天気が良ければ信号待ちでオープンにできるというのは乳幼児がグズったときの対策として有効だと思ったのです。さらに子どもの頃にオープンカーライフを経験しておくことはその後の成長において大いに意味があるかもという狙いもありました。
残念ながら、現時点では我が子はそれほどクルマ好きにはなっていないようですが、オープンカーで生活したという体験が将来に活きてくることを期待している日々です。
そして、ビートルではダウンサイジングターボとDCTの組み合わせというパワートレインを味わえたのも、自分の経験になったと感じています。もっとも、最終的には日本の道路環境にDCTはアンマッチという結論に達したのですが、それも長期に乗ったことで腹落ちした結論が導くことができたと思っています。
じつは、並行してホンダ・インサイト(2代目)にも乗っていました。なんだかんだ日本で次世代のクルマは電動車になると考えていたからです。電動車の進化と普及をリアルタイムで感じていたいという気持ちで、この普及型ハイブリッドカーに乗っていました。
正直、このクルマについては心から欲しいと思ったというよりは「この仕事をしているなら乗っておくべき」という感情のほうが強かったかもしれません。
その延長で乗り換えたのが日産リーフです。日産初の量産型EVはフルモデルチェンジを果たしていましたが、あえて初期型の中古車を探してきたのは当時、初代リーフの中古車が激安で売られているというのが話題になっていたから。結果的に1年半落ちで160万円の個体を見つけて手に入れたのです。
そんな風に”仕事柄乗っておくか”くらいの気持ちで購入したリーフでしたが、EVと日常的に生活するようになって見えてきたのは、じつは航続距離は重要ではないということです。初代リーフでも30kWhのバッテリーを積んでおり、1回の満充電で200kmは走ることができます。そうなると月間500~600km走るとして、週に1回充電すれば余裕でこなせます。さらに1年を通して乗っていると、EVの電費は季節(外気温)によって変化することもわかりました。具体的にいうと、寒からず暑からずの秋がベストシーズンでした。
リーフに慣れてくると電費を稼ぐ乗り方も身についてきます。イメージとしてはスパッと加速してダラダラと減速するという乗り方といったら伝わりますでしょうか。実際、2021年10月に手放したのですが、その月の平均電費は8.9km/kWhとキャリアハイだったのです。
とはいえ、リーフの航続距離が気にならなかったのは街乗り専用車という位置づけだった面があったことは否めません。同時期、家庭の事情もあってインサイトから車椅子仕様のホンダ・フリード+に乗り換えていたので、長距離ドライブではフリード+が活躍してくれました。
車椅子仕様の中でフリード+を選んだのは、この手のクルマの中では足まわりの出来が秀逸と感じていたからですが、ホンダセンシングをフル活用することで車間と車線中央維持をクルマが大きくカバーしてくれるのも、高速ドライブではフリード+を使いたくなる理由でした。このクルマではADAS(先進運転支援システム)を積極的に使うカーライフを経験できたのです。
というわけで、独立してからの愛車遍歴を振り返ると自動車コラムニストとしての経験重視のクルマ選びをしてきたのかもしれません。けっこうな金額をクルマに費やしてきましたが、それが自動車コラムニストというポジションを確立するのに役立ったならば、適切な投資だったといえるかもしれませんし、家族の理解も得られるかもしれません(笑)。
こんな愛車遍歴の自分ですが、いまの愛車は一台に絞っています。
それがスズキの軽商用車「エブリイバン」です。ワゴンではなくバンを選んだのは、最近流行りつつある軽バンライフを自分としても経験しておきたいというのもありますし、久しぶりにMTに乗りたいと思ってカタログを眺めていたらバンにしかMTの設定がなかったというのも理由です。
リヤシートを畳んで快適に眠れるようにクッション性に優れたマットレスを探してみたり、電気毛布を使うためのポータブルバッテリーを物色したりするなどして、車中泊を楽しんでいます。そんな風に自由に移動できるテント小屋として認識するとハンドリングや加速性能がどうこうと評価するのがバカバカしくなってくるから不思議なものです。プリミティブに移動ができれば十分に楽しいのが軽バンライフなのだなぁというのは最初の発見でした。これから軽バンライフを続けていくことで新たな発見があるでしょう、それも楽しみです。
なお、純粋な走りについては50歳を機にリターンしたライダー生活で楽しんでいます。メインの愛車はホンダCBR1000RR-Rファイアーブレード。
999ccから218馬力を発生する直列4気筒エンジンは、スロットルとクランクシャフトがダイレクトにつながっているかのような高レスポンスで、究極の内燃機関は限りなく電気モーターにフィーリングが近づくということを実感している日々です。