国内メーカーでも作れるがビジネス面を考えるとまだ怪しい領域だ
その一方で、国産メーカーからは、こうしたハイパフォーマンス系EVを生み出そうという動きはない印象がある。はたして、そこには技術的な壁があるのだろうか。
おそらく技術的には国産メーカーであってもハイパフォーマンスEVを作ることは不可能ではないだろう。はっきり言って高出力バッテリーを積んで、それに見合ったインバーター類とモーターを積めば、0-100km/h加速だけ速いEVを作るのは難しくない。
曲がる・止まるの性能まで見合ったものにしようとするとノウハウは必要になってくるだろうが、少なくともLFAなどを生み出したきたトヨタ、GT-Rの経験を持つ日産、そしてハイブリッドスーパースポーツNSXを誕生させたホンダについては、車体設計を含めてもハイパフォーマンスEVを生み出せるだけの実力はあるといえる。
しかし「作れること」と「作ること」は別物だ。作るということは売ることができなければ意味がないからだ。はたして、国産メーカーに数千万円級のハイパフォーマンスEVを売るだけのブランド力があるかといえば疑問だ。これは海外メーカーでも同様で、いわゆる大衆車を扱っているブランドで、高価なスーパースポーツを売るのは非常に難しい。
また企業別平均燃費という考え方からすると、規模の大きなメーカーほどゼロエミッションのEVをたくさん売る必要がある。同じ量のバッテリーを使うにしても、たくさんのバッテリーを積んだスーパースポーツ一台を作るより、バッテリーを小分けしてコンパクトカー10台を作ったほうが、企業としての環境対応には有利となる。
そうなると年間で数百万台~1000万台の販売規模である国産メーカーが、ハイパフォーマンスEVを生み出すインセンティブはない。国内向けであれば軽自動車など多くの台数が出るカテゴリーにEVを投入することが正義となる。
とはいえ、国産メーカーがスポーツEVを考えていないわけではない。2021年11月29日に、日産が長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表したが、その中で全固体電池の開発を進めていること、全固体電池を用いた汎用的なEVプラットフォームを想定していることが明らかとなった。しかも、全固体電池を搭載したEVの量産開始は2028年度を目標にしているという。それほど先の話ではない。
そして、この全固体電池を使うプラットフォームの一例として「Max-Out(マックスアウト)」というデジタルコンセプトカーが発表された。
EV専用プラットフォームの持つ低重心というメリットを活かしたオープンスポーツカーで、駆動はe-4ORCE(前後モーターによる四輪駆動)というから加速性能にも期待は持てるし、駆動力配分による旋回性能も期待できるパッケージだ。日産によれば「これまでにない新しいドライビング体験を提供する」というコンセプトとなっている。
このコンセプトカーは、EV市場が拡大していく中で、少なくとも日産はEVスポーツカーを手掛けていくという方向性を示している。これがマーケット調査の結果だとすれば、同様の判断を他の国産メーカーもしていることは間違いなく、2030年代には国産メーカーからもハイパフォーマンスなEVが登場してくると予想するのが妥当であろう。