技術の進化次第ではクルマの基本形が大きく変わる可能性もある
英国のジャガーi-PACEは、一見したところ従来と変わらぬ姿に思えるが、じつはエンジンがないのでボンネットフードはエンジン車に比べ短く、真横からの姿はEVならではだ。
近年では衝突安全確保の項目として、歩行者とクルマの衝突で人的被害を抑えるため、ボンネットフード下にある金属のエンジンで歩行者が被害を受けにくいようにしている。それによってグリルに厚みが増え、ボンネットフード位置が高くなる傾向だが、テスラはEVであるがゆえに、エンジン車と違った低いボンネットフードを実現している。
エンジン車でもボンネットフードが低い格好よさを求めるなら、歩行者と接触した際にボンネットフードが跳ね上がり、なかのエンジンとの間に余分の隙間を設ける対応策も以前からある。ただし、その装置のために原価が上がるので、装備されるのは上級車種が主体だ。ほかに、衝突時にはボンネットフード上にエアバッグを展開し、歩行者の頭部がフードはもとよりピラーなど硬い車体部分にぶつからないようにしたりするなどの対策も行われている。
単にクルマとしての機能や部品配置だけでなく、衝突安全や自分のクルマ以外の歩行者や二輪車などとの事故の被害低減も、クルマの造形と深く関係している。
そのうえで、東京オリンピック/パラリンピックで選手村での移動に使われたトヨタのe-Paletのように、これまでのクルマの概念を超えた造形は、自動運転の普及などと合わせてこの先創造されていくようになるのではないだろうか。EVであれば、円筒形のモーターは高さの制約が少なく、制御装置や充電装置などは、駆動用バッテリーと同様にあいた空間に配置しても、走行上の支障は起こりにくい。
EVが普及し、それに伴い自動運転技術が進歩して、ぶつからないクルマが作れるようになると、クルマの外観も従来からの基本形を脱して変わっていく可能性があるのではないか。これからが、デザイナーや車両企画者の腕の見せどころになる。