偉大なレジェンドをオマージュしたモデルも登場
当時最新のF1マシンのノーズコーンにモチーフを得たことは間違いないフロントノーズの処理も実に斬新だ。スリーポインテッドスターのエンブレムは高圧でエアを導入できるインテークとなっており、フロントアクスルの後方に搭載される、フロントミッドシップの5.4リッター仕様のV型8気筒エンジンへとつながる。リショルム型コンプレッサーへとエアは導かれるシステムだ。さらにその下の大きなエアインテークは、ラジエーター等の冷却という役割を担う。
626馬力の最高出力を発揮する、このパワーユニットの開発と製作はメルセデスAMGに委ねられ、またカーボン製のセンターモノコックやボディ、さらに生産そのものはマクラーレンが担当。ちなみにフランクフルトで発表された生産計画は、7年間で3500台というものだった。唯一残念なのは、搭載されるミッションがオーソドックスな5速ATだったことで、これは最大でトルクが780N・mにも達するために、メルセデス・ベンツがこれに対応できると判断したミッションが当時存在しなかったことが直接の理由とされている。
2006年にはハイパフォーマンス・バージョンの「SLRマクラーレン722エディション」がリリースされた。これはSLRクーペのファイナルモデルとして追加されたもので、メルセデスAMG製のエンジンはさらに650馬力仕様にパワーアップ。最高速は337km/hを可能にしている。カーボン製フロントスポイラーやディフューザーも、このモデルに専用のデザインとなっている。
さらに2007年になると、ようやく待望の「SLRマクラーレン・ロードスター」が、そして翌2008年には「同722S」が誕生する。これは各々SLRマクラーレンのオープン仕様と、722エディションのハイパワーユニットを搭載するモデルに相当するもの。後者は150台の限定車とアナウンスされ、アメリカ市場を中心に爆発的な人気を呼んだ。
SLRマクラーレンには、じつはそれを用いたワンメークレースの構想もあった。それはイギリスのレイ・マーロック・リミテッドによって、メルセデス・ベンツのサポートのもと計画されたもので、実際に21台のレース車両を製作することが決定されていた。
ベースとなったのはクーペのファイナル・エディションとされていた722エディションで、メルセデスAMGはパワーに変更はないが、トルクを最大で830N・mにまで強化。デファレンシャルには機械式のLSDも組み込まれた。前後のサスペンションもこのレース仕様のためのスペシャル。「722GT」とネーミングされたそれは、実際に2007年のエッセン・モーターショーで発表されたが、残念ながらソールドアウトには至らず、現在ではコレクターズアイテムのひとつとなっている。
ここまでSLRマクラーレンの歴史を振り返ってきたが、そのファイナルモデルとなったのは、2009年のNAIASで発表された「SLRマクラーレン・スターリング・モス」だった。
75台のみが限定生産されたそれは、ほかのSLRシリーズとはあきらかに異なるフォルムを持つモデル。スターリング・モスの名が、いかに偉大なものであるのかを、このSLRのファイナルモデルは物語っている。
そしてこの75台の生産をもって、メルセデス・ベンツ、メルセデスAMG、マクラーレンの3社によるコラボレーションは終わりを告げたのだった。