開発競争の激化による参戦コストの高騰で消えた「GT1」
こうしてGT規定は1997年からFIAの直轄となり、ステファヌ・ラテル率いるSTRモータースポーツ・グループがFIA GT選手権を運営した。だがGT1には当初あった最低25台は生産して市販すべしという縛りがなくなり、実質的に1台で公認OKとなったため、メーカーにとってはプロトタイプと変わらない開発スパンの短さ&コスト増のカテゴリーとなってしまった。
そのため1999年いっぱいでGT1が消滅、GT2がトップカテゴリーとなる。手を加えていい範囲がGT1よりずっと狭かったとはいえ、GT2も開発競争は激化した。
たとえばポルシェ911の996世代は、1999年のジュネーブ・サロンで公道モデルのGT3とほぼ同時に、プライベーターのためのサーキット版911 GT3 Rを投入。GT3を名のりつつGT2カテゴリーに対応していたが、アストンマーチン・ヴァンテージやBMW M3らライバルに対し、ナショナル・レベルのGTレースだけでなくデイトナやル・マンでアドバンテージを保つため、2~3年ごとにベース市販モデルのGT3を進化させねばならなかった。それに呼応してサーキットでは、2001年の996 GT3 RS、次いで2004年の996 GT3 RSRへ繋がっていった。
市販車ベースで、ハイ・アマチュア向けのクライアント・レーシング車両として始まったにもかかわらず、GT2の開発競争負担がメーカーにのしかかったため、2005年から新たなホモロゲ―ション枠組みとしてGT3が導入された。これはバランス・オブ・パフォーマンスという考え方を基本に、市販中のモデルをベースとしていればエンジン形式やシャシー設計はかなり自由。よって多様なシルエットのクルマが出走可能になるが、馬力やブースト圧、エンジンマネージメント、空力や重量といった要素に厳しい制限を設けることで、圧倒的に強いクルマが生まれにくい。
GT2カテゴリー世代の「GT3」モデルより、よりレーシングカーじみたワイドトレッドのプロポーションをしているのも、そのためだ。しかも一度ホモロゲ―ションを取ったら、原則としてシーズン中に大幅な変更は認められず、開発スピードの加速を防ぐことも念頭に入れられている。GT3カテゴリーは世界中で一定以上の成功を収め、日本のスーパーGT選手権でもGT300クラスにFIA-GTが押し寄せたのは周知のとおり。とはいえGT3も「プロトタイプ化」が進み、高価なワンオフ・シャシーが負担になるため、汎用マザーシャシーまで日本では生まれている。
GT3と同時期に始まったが、GT3の成功の陰にずっと隠れていたのがGT4カテゴリーだ。よりベース市販車の改造範囲が制限されており、「モータースポーツ用キットカー」の色合いが強く、GT3の車両価格が最低でも5000万円以上に上るといわれるのに対し、ポルシェ・ケイマンやアルピーヌA110のGT4は今のところ現地価格で2000万円強に収まっている。
サーキットやラリー向けに仕立てられたGT4は、ロードゴーイングカーではなく競技専用車両だが、市販モデルにGT3やGT4と付くそれらは、ホモロゲのベースモデルになったということ。実際、公認モータースポーツの型式認証の基準に沿って、チューニングのバランスを突き詰めているカテゴリーという意味では、GT4は確かに旬。トヨタはルーキーレーシングを通じてGRスープラのGT4を開発し続けているし、直近のロサンゼルス・モーターショーでポルシェがケイマンGT4 RSを発表したのも、大きな後押しとなるだろう。