怒涛のパワーアップの”カギ”はタービンにある
さて、GT-RのVR38DETT型エンジンだが、進化の度合いを追ってみると、第1期から第2期への進化は、過給圧はそのままに制御系の対策で得たものと推測できるが、第2期から第3期への変化は、過給圧の引き上げ、あるいはタービン、またはタービンサイズの変更(大径化)が考えられる。
タービンの変更とは、高効率形状のタービンブレードに変更されたという意味で、タービンサイズの変更とは、タービン径そのものを大径化して圧送空気量を増加させることをいう。いずれにしても、過給圧の変更、タービンサイズの変更といった対策は、出力/トルクの増強という点から見れば、いとも簡単に実現できるのだが、それの引き替えとして、ドライバビリティの悪化がつきまとってくる。
このドライバビリティの悪化を防ぐ手段が、ターボ系の制御技術で、燃料供給から点火系、吸排気効率とエンジンの運転に関わるあらゆる項目が関わってくる。こうした精緻な制御技術の進歩によって、同一エンジンで出力/トルクを引き上げながら、ドライバビリティを損なわない扱いやすい特性が実現可能となる。
先に、量産車のターボシステムと前提条件付けをしたのは、扱いやすさを損なったエンジン特性は量産車として許されることではなく、いかに高性能車といえども、ドライバビリティの確保が最優先事項として位置付けられているからだ。
ちなみに、GT-Rシリーズには、2014年に「NISMO」グレード加えられ、出力/トルクは600馬力/66.5kg-mと通常のGT-Rシリーズを上まわる数値に設定された。このGT-R NISMOには、FIA-GT3規定に従った市販レーシングカー「GT-R GT3」で使われたタービン径の大きな通称「GT3タービン」が装着された。
厳密な比較でいえば、ドライバビリティに関しては、通常のGT-Rシリーズのほうが優れるが、GT3タービンを装着したGT-R NISMOのドライバビリティが著しく劣るかといえば、決してそんなことはない。一般公道を走行する上で、扱いにくさを感じさせない仕上がりとなっている。
ターボエンジン搭載車の出力/トルク値は、過給圧の引き上げで簡単に高めることができる。しかし、それの引き替えとして、ドライバビリティが悪化することは、絶対に許されることではない。GT-Rの出力/トルク値アップの歴史は、言い換えれば、ターボ制御技術の進化を表したもの、と言ってもよいだろう。